温暖化問題 – 重箱の隅をつつく

自宅の近くにイリノイ大学 (University of Illinois at Chicago: UIC) のシカゴキャンパスがある。自宅周辺はシカゴのダウンタウンに近く散歩するのも大都会の中なので緊張感がいる。しかし、大学 (UIC)のキャンパスだけは緑も多く車を気にする必要もない。散歩するのには良いところである。

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Fig.1 イリノイ大学キャンパスの一角(2022/8)

その大学(UIC)のフェイスブックのアカウントにSustainability at UICというグループがある。2015年9月の国連サミットでSDGs(Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標)が採択された。そのSDGsにならって温暖化問題を中心に環境保護のために行動をしようということらしい。

先日このサイトに次のような主張があった。”クリスマスツリーを一般ごみと一緒に処分すべきではない。一般ごみは埋め立てられ、分解して温室効果ガスのメタンを発生する。温暖化に対してメタンはCO2よりも影響が大きい。だから、クリスマスツリーは粉砕してマルチにすべきだ。そのための市が決めた場所に捨てよう。” この主張を読んだ時、随分と「重箱の隅をつつく」話だなあと思った。なぜかを説明するために、温暖化とCO2の因果関係を整理しておきたいと思う。詳細は全てこのブログで以前述べてきたことである。

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Fig.2 廃棄されたクリスマスツリー

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Fig.3 マルチの例

整理-1

IPCCの地球上の炭素バランスによると全炭素のサイクル量が150 Gt、そのうち光合成に関与している炭素が60 Gt、残りの90 Gtが地球上のCO2の放出、吸収に関与している量である。90 Gtのうち化石燃料の燃焼で排出されるCO2は炭素換算すると5 Gtである。従って、人為的に排出されるCO2の量は、全炭素サイクルの約3% である

整理-2

光合成で固定されたCO2起源の炭素60 Gtは究極的にはCO2またはCH4に微生物で分解される。莫大な量であるが、太古から延々と続いている自然サイクルの一環である。空気が存在する好気的分解ではCO2に、空気が制限された嫌気的分解ではCH4になる。タンパク質などの窒素を含む生物体の分解ではN2Oが発生する。

整理-3

主要な大気中の温室効果ガスは、H2O、CO2、CH4、N2Oである。大気中の濃度はH2Oが%、CO2が数百ppm、CH4が数百ppb、N2Oが数百ppbである。従って、温室効果はH2Oによってコントロールされ、CO2の影響は小さい。さらにCH4とN2Oの効果は無視できる

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微生物による分解では、CO2の発生量は温度に依存する。温度が高いほど分解速度は速い。人工衛星による観測によると、熱帯の方が工業地帯よりCO2濃度が高い。微生物による分解速度が速いためである。

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気温の変化から10ヶ月遅れて大気のCO2濃度が変化する。エルニーニョ現象がおきると地球の温度が上がるが、2015年のエルニーニョの時にCO2が熱帯地方で増加した。氷床コアの分析でも、温度変化から1000年余り遅れてCO2が変化している。また、氷床コアの分析で、CH4も温度変化に追随して変化していた。

整理-6

CO2は温度の変化に呼応して変わるのであり、温度変化の積分値で表現できる。あるいはCO2の変化速度(微分)と温度が一次式で関係づけられる。従って、CO2の濃度変化と温度変化には因果関係があるが、CO2の濃度変化は温度変化の原因ではなくて結果である

これまで分かっている以上の科学的な事実から、廃棄するクリスマスツリーを一般ゴミから分けてマルチとして活用すべきだという主張が「重箱の隅をつつく」話だと言う所以である。

山からクリスマスツリーを切り出し、車で町まで運び、一か月後に車で廃棄ツリーを回収して、モーターで粉砕してマルチを作ることから出るCO2はどう考えるのだろう。プラントの回りに施されたマルチもいずれはCO2に分解する。内部のマルチからはCH4が出るかも知れない。いずれにせよ「重箱の隅をつつく」というレベルでの話をし始めるとこうなる。

廃棄した木の回収を行うシカゴ市、関連記事を書いた新聞社、賛同するイリノイ大学はもっと本質的なことを考えるべきである。日本でも同様である。石炭の火力発電を自粛して、エネルギー価格の高騰に苦しみ、原子力エネルギー活用へと回帰することは科学的な事実に照らすとおかしな話である

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Fig.4 イリノイ大学のキャンパスから眺めたシカゴのダウンタウン(2022/6)

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