Monthly Archives: June 2023

蓄熱体としての大気

地球に入射する太陽エネルギーの30%は成層圏で反射する。20%は地表に達し入射光より波長の長い赤外線として反射する。15%が赤外活性物質に吸収され、5%はそのまま宇宙へ逃げて行く。大気中の赤外活性物質の大部分は水である。CO2はわずか400ppmに過ぎない。残り50%は大気に吸収されたり、大気の分子運動を変化させるのに使われる。多くは水の蒸発などの相変化、対流、熱伝導に消費され地球の温暖化に供しているが文献での明確な記述はない。 気温は大気の分子運動を表す物理量で、大気が獲得したエネルギーとして蓄熱する。従って、窒素、酸素は温室効果はないが、太陽エネルギーを地球の熱としてある一定時間保持する。H2O,CO2の温室効果ガスのみでは熱を蓄えることができない。窒素、酸素が必要なのである。以下このテーマを整理するために、大気に関する必要な物理化学の整理をしておく。簡潔にするために、必要な式は結果のみである。式の導き方はリンクしたウィキペディアなどでたどることができる。 1.運動エネルギー 地球温暖化について考えることは大気の温度を調べることである。それでは、大気の温度は何かというと、大気を構成するガス分子の運動エネルギーである。この場合の運動エネルギーは大気を構成するガス分子の併進エネルギーである。大気中のCO2による赤外線の吸収エネルギーは、気温を決める分子の併進エネルギーに比べるとはるかに小さい。気体の温度と運動エネルギーとの関係は、気体の状態方程式と分子運動論から次式のようになる。 kT= 3/2・mv2                                            (1) (k=ボルツマン定数、T=温度、m=分子の質量、v=分子の速度) 2.ウィーンの変位則 黒体からの輻射のピークの波長が温度に反比例するという法則である。 (b = 2.8977729×10^−3 K·m)                (2) Fig.1 CO2は15µmの赤外線を吸収する。これは(2)式から-80℃の温度に相当する。 3.ステファン・ボルツマンの法則 熱輻射により黒体から放出される電磁波のエネルギーと温度の関係を表した物理法則である。 j* = σT4                     (3) 4.太陽定数 太陽定数Gscとは、地球の大気表面の単位面積に垂直に入射する太陽のエネルギー量のことである。太陽定数は、下図で示すように周期的に変化することがわかっている。 (4) R = 太陽の半径 (6.96 x 10^8 m) D … Continue reading

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青森県六ケ所村

青森県の下北半島の付け根に六ヶ所村がある。先月(5/23/2023)、六ヶ所村にある原燃PRセンターを訪れた。比較的大きな村だがアクセスは不便である。青森県内の旧東北本線は第三セクターの青い森鉄道へ移管されている。そのため東北新幹線で八戸に降り立ち青い森鉄道に乗り換える必要がある。さらに野辺地で降りて一日数本しかないバスで一時間半かけて行った。野辺地市内で数人バスに乗ったがしばらくして降りたので、かなりの間私ひとりであった。 Fig.1 六ケ所村の原燃PRセンター周辺、エネルギー関連の施設が軒を並べる やがて公園、体育館、郷土館の集まったところに降り立った。その公園の前に原燃PRセンターがある。 Fig.2 六ヶ所村の公園コンプレックス、後ろに風力発電の施設が見える 六ヶ所村には、原子力発電所からの放射性廃棄物と使用済み燃料を処理することを目的に設立された電力各社が株主の日本原燃(株)がある。従業員は3,000人なので村としては非常に大きな組織である。この立派な公園を見ていると法人税、助成金で整備されているのだろうなと思う。原燃PRセンターは、原燃が扱う放射性物質処理の衆知を目的にしているようである。誰でも自由にアクセスできるが、予約しておくと一人でもガイドをつけてくれる。私に説明してくれたガイド嬢は、遠く三沢から一時間かけて通勤しているということだった。 原燃PRセンターの回りはさえぎるものがないので、中央にある窓から景色を良く見ることができる。南西地区には石油備蓄センターがあり海岸部からパイプラインで運ばれるようになっている。あちこちにソーラーパネル、風力発電の建造物がある。バスからも多くを見ることができる。 Fig.3 原燃PRセンター 原燃PRセンターでは、二点焦点をあてて紹介されている。ひとつは、高レベル放射性廃棄物貯蔵施設で、再処理工場でガラス固化体にされた高レベル放射性廃棄物を、最終処分に向けて30〜50年間冷却・貯蔵する施設である。つぎに、MOX燃料(混合酸化物燃料の略称)の製造で、原子炉の使用済み核燃料に含まれるプルトニウムを再処理により取り出し、二酸化プルトニウム(PuO2)と二酸化ウラン(UO2)とを混ぜてプルトニウム濃度を4-9%に高めた核燃料である。主として高速増殖炉の燃料に用いられるが、既存の軽水炉用燃料ペレットと同一の形状に加工し、適切な核設計を行ったうえで適切な位置に配置することにより、軽水炉のウラン燃料の代替として用いることができる。これをプルサーマル(和製英語で国際的には通用しない)利用と呼ぶ (Wikipedia)。 ガイドの説明を聞いていると、あたかも全てが確立されたプロセスのように聞こえるが実際は違う。原燃の再処理工場は、様々なトラブルや安全審査の遅れなどで、完成予定が何度も延期されている。当初は1997年の完成予定だったのが、現在は2024年度上期となっている。総事業費も14兆4400億円に膨らんでいる。安全性や経済性には多くの課題があるのか、2000年以降プルサーマルを実施したのは伊方発電所3号機や玄海発電所3号機など4基のみとなっている。 一方、高速増殖炉の「もんじゅ」は1983年に建設が始まった。1995年、2010年に事故が起きて本格運転をすることもなく2016年に廃炉が決まっている。福島第一発電所の事故で原子力利用は可能な限り最小限にするはずであったが、ウクライナのロシアによる侵攻でエネルギー価格が上昇したこと、CO2排出量の削減の取り組みなどで、いつのまにか風向きが変わっている。再び原子力利用の声がかかり始めている。しかし、以上述べたように使用済み核燃料の廃棄処理、再利用のプロセスは確立されていないのである。 Fig.4 原燃PRセンターの地下にある模擬装置 青森県六ヶ所村には富ノ沢遺跡や大石平遺跡など、100ヶ所以上の縄文遺跡群がある。遺跡群地図で一部を確認できるがその数には驚くばかりである。そのうち、富ノ沢遺跡は、約500軒から成る県内でも最大級の集落跡で、青森市の三内丸山遺跡と同時期の4700年前から4000年前にかけて存在したと考えられている。縄文時代前期は現代より暖かく、縄文海進で遺跡群の近くに太平洋の浜辺があったようである。村立郷土館によると、村内の遺跡の大半は1970年代の「むつ小川原開発」に伴う発掘調査で見つかった。しかし、核燃料関連施設や道路整備が優先されて遺跡は調査後に取り壊されたので、ほとんど残っていない。それで、世界遺産の構成対象にはなっていない。 Fig.5 六ケ所村郷土館 以上、わざわざ六ケ所村を取り上げたのは、六ケ所村周辺が温暖化の問題に間接的に関係しているからである。CO2を排出しないための原子力エネルギーの利用は、再生処理設備が完成し、定常な運転が確立されない限り将来に悔恨を残すことになる。縄文時代は現代の温暖期よりもさらに暖かだった。皮肉にも六ケ所村には多くの遺跡が見つかっているが、多くが現代の土地開発の過程で保存されず壊されてしまったのである。

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温暖化の科学の出発点3

- CO2のkinetics 氷床コアの分析からも示されるように、地球の温度は数十年、数百年をかけてゆっくりと高低を繰り返してきた。温度の変化とCO2の変化はある程度呼応している。どちらかが原因で他方が結果かも知れない。80万年前まで遡れる周期的な温度変化の要因はまだ明確ではない。そうした中、現代の温暖期にだけ科学的な証拠もなく、400 ppmのCO2濃度変化に温暖化の原因を特定化するのは科学的思考の飛躍である。 今年に入って、大手の三つの銀行が破綻した。オンラインによる取り付け騒ぎである。デジタル時代の預金の取り付けという意味で「デジタル・バンク・ラン」と言うそうである。50年前の1973年に大阪で、豊川信用金庫に対する取り付け騒ぎ(豊川信用金庫事件)があった。ことの始まりは、電車内での女子高校生のたわいない一言だったそうだ(朝日新聞「天声人語」(5/9/2023))。愛知県の豊川信用金庫へ就職が決まっていた一人に、もう一人が「信金は危ないわよ」と冗談をとばす。真に受けた当人から親戚へ、その知人へと話は広がり、夫婦が営むクリーニング店に流れ着いた。店番中の妻が、多額の現金をたまたま下ろそうとしていた人と出くわした。「うわさは本当だった」。もう止まらない。得意先に電話をかけまくった。うわさやデマで一部の人々がパニックに陥ったのである。「CO2による人為的な温暖化仮説」を見聞きしていると同様のパニックが起きているように思える。「科学ではなく回りの空気で動いている」のである。その空気を作り出しているのがIPCCにほかならない。 これまで、下図に示すようにCO2は地球からと地球への放出と吸収プロセスからなることを整理してきた。そしてこれらのプロセスは温度に依存している。地球の温度が上がると放出プロセスによるCO2の量が上昇し、大気中のCO2濃度が上がる(thermally-induced CO2)。逆に、地球の温度が下がると、放出プロセスによるCO2の量が減少し、大気中CO2濃度は下がるのである。 Fig.1 地球上のCO2の吸収と放出の温度依存性を表す模式図 主要なCO2の放出と吸収プロセスは下図で示される。植物は、CO2を固定するが、朽ちた葉などは数年以上かけて分解しCO2に戻る。温度が高いほど分解速度は速い。前にも述べたように、大気中のCO2の約1/3は動植物の分解からで、2/3は海から放出される。海からの放出も温度が高いほど増える。人間の燃焼によるCO2 は、約4%のみである。 Fig.2 主要なCO2の放出と吸収プロセス 陸地は地球の約30%を占め、陸地の30%が森林である。森林は、地球全体では約10%である。亜寒帯林は北半球では北緯50度から70度に広がっている。南半球では南アメリカの南端などにみられる程度である。下図で示すように、人工衛星からの測定結果によるCO2濃度の分布と森林分布は良く対応している。 Fig.3 森林面積の分布図 Fig.4 人工衛星からのCO2濃度の分析結果(NASA, 2010) 地球上の生物体(バイオマス)は有機物質と水で構成される。下図は地球上のバイオマスの分布を示したもので植物が主要なバイオマスであることがわかる。バイオマスは植物を中心に食物連鎖でつながる。各生物体は空気が存在する好気的分解ではCO2を発生する。そしてCO2は、植物の光合成で有機物として固定化され炭素サイクルを形成する媒介となる。大気中を拡散、移動できるCO2が気体でなければ炭素サイクルまたは生物サイクルは成立しない。従ってCO2は生物サイクルにおいて自然界が与えた非常に重宝な物質と言える。前回述べたように、CO2濃度が高いと光合成の速度が増すので生物サイクルの速度が増すことにつながる。現代の温暖期においては、衛星観測で示されているようにここ数十年(1982 ~ 2010 年)にわたり地球の緑化がみられる(Ref.)。「CO2の追肥効果」による緑化と考えられる。 Fig.5 地球上のバイオマス分布 その非常に重宝な物質である大気中のCO2濃度を変えるのは陸の緑と海、そして数十年から数百年にわたり変化する温度である。緑は光合成と植物の分解に関係し、広大な海はCO2を溶解してバッファーの役目を果たす。温度変化は分解と溶解速度を変化させる。 Fig.6 緑と水で覆われた地球 自然界の CO2 の放出速度と吸収速度は、CO2以外のガスが相互作用しないものと仮定すれば、CO2 発生源の濃度また大気中の CO2 濃度に比例するものと近似できる。そうすると CO2 の吸収速度は典型的な一次速度式で表され、CO2 の濃度の経時変化が決められる。すなわち、               (1)                  (2) k は定数であり逆数が滞留時間 τ である。C0  は初期の CO2 濃度である。この式は、14C の吸収速度の結果から確かめられた。自然の CO2 … Continue reading

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