温度上昇で増加するCO2はどこから

前回の Murry Salby の講演で紹介したように、大気温度とCO2は相関していて、温度が上昇するとCO2濃度も上がる(thermally-induced CO2)。この増加するCO2の主要な発生源は何だろうかというのが今回のテーマである。主にSalbyの講演とNOAA (アメリカ海洋大気庁)のサイトからのデータをもとに整理する。

炭素の同位体13C は安定で自然界に1.1% 存在する。一般に、次式で定義するδ13C を用いて13Cを含む化合物の割合を占めす。13C の存在量が小さければδ13Cの値も小さくなる。

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地球上のCO2を追跡する場合13Cは良いトレーサーになる。光合成のプロセスでは植物は13CO2 よりも12CO2 を多く取り込む傾向がある。従って、植物や石炭などの化石燃料はδ13Cの値が平均値よりも小さい。化石燃料を燃やすと12CO2 がより多く放出されて大気中の13CO2 が希釈されることになる。従って、大気中のδ13Cの値は小さくなるはずである。

下図のNOAAのデータで示すように大気中のδ13Cの値はCO2の濃度が増すにつれて減少している。一年の短期間においてもδ13Cの値は、CO2の濃度変化とは逆の変化になる。


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Fig.1 δ13Cの値とCO2の濃度の変化

話しを進める前にCO2バランスを見ておく必要がある。IPCCの報告によるとそのバランスは概略下図のようになる。年間、炭素基準で約60 GtのCO2が光合成で消費され、同量が植物の分解で放出される。ほぼ同量の約60 Gtの CO2が植物呼吸にかかわるがここでは省略されている。約90 Gtの CO2が海水による吸収、放出のプロセスにかかわる。化石燃料の燃焼によるCO2の放出は150 Gtのうちわずか5 Gt(約3%)である。

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Fig. 2 CO2バランス(Salby の講演スライドから)

またCO2サイクルにおけるδ13Cの変化は下図のように推定されている。海から放出されるCO2のδ13Cは大気中のδ13Cとほぼ同等である。化石燃料の燃焼から排出されるCO2と植物の分解から放出されるCO2のδ13Cはおよそ同レベルである。大気中のδ13Cの値はCO2の濃度が増すにつれて減少する。従って、上記のCO2バランスを考慮すると、化石燃料の燃焼よりも植物の分解による12CO2により13CO2 が希釈されδ13Cが減少する効果がはるかに大きいものと考えられる。

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Fig. 3 各プロセスにおけるδ13C の推測値

北極に近いアラスカと南極の観測所におけるCO2とδ13Cの観測データを下図に示す。北極では南極よりもこれらの変化が大きい(スケールの違いに注意)。南極では植物が皆無なので植物の分解により発生するCO2がないためと解釈される。

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Fig. 4アラスカバーロー観測所におけるCO2とδ13Cの観測データ

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Fig. 5南極の観測所におけるCO2とδ13Cの観測データ

最近では最も強いエルニーニョが2015年に発生した。この影響は、下図の人工衛星による温度変化のグラフで見ることができる。

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Fig. 6 人工衛星による温度の測定値

人工衛星のモニタリングによる COの観測結果と比較すると 2011年 に比べて、炭素換算で約 2.5 Gt の CO2 が熱帯地域から発生した。以上まとめると、温度が上昇すると CO濃度が上がる (thermally-induced CO2)。この CO2 の上昇は主に高温における植物分解によるものと解釈できる。

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Fig. 7人工衛星の観測による2015年のエルニーニョの時のCO2発生量

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