温暖化している時はCO2濃度を下げられない

- 全化石燃料の燃焼を止めても

夏は食べ物が腐りやすい。温度が上がれば腐る速度は速くなる。CO2を出しながら分解しているが、微生物による生物プロセスなので時間がかかる。雨の多い日本は緑に溢れる。多くの植物体は毎年新しい新芽にとって代わる。木々は100年以上生きるものもある。極端な例が、屋久島の万代杉で樹齢3000年である。しかし、いずれ死に絶える。古い植物体は土の中に埋まったり、地表に折り重なったりする。最後は、CO2を出しながら分解して次の世代にとって代わる。見た目には変わらない緑だが、年々世代交代をしている。この世代交代による、地球上から放出されるCO2は莫大な量である。燃焼排ガスと違って目立たないだけである。夏や熱帯地方では植物の分解によるCO2の発生量はより多い。

fig-1
Fig.1 横山展望台から眺めた緑で覆われる英虞湾 (5/17/2023、筆者)

下図は、IPCCの報告書(AR5-Chap.6-Fig.6.1)からの地球の炭素サイクルの概略である。植物体の分解量は合成量に追いつけず少しずつ溜まっていく。これらの残留物は、図中でSoil中の炭素換算量として1,500-2,400 GtCと記されている。化石燃料よりも遥かに多い量である。表面のVegetation 450-650 GtC と合わせると非常に多い。これらの有機炭素が分解するわけで、温度が上昇すると分解量も多くなる。だから、温度上昇で発生するCO2の量は莫大である。

fig-2
Fig.2 地球の炭素サイクル量(単位: GtC/year)。 工業化以前は、黒い数字と矢印で、2000 年から 2009 年の間の平均値を赤い矢印と数字で示す。(AR5-Chap.6-Fig.6.1)(オリジナルの図にリンクすると拡大して見ることができる、赤い矢印と数字は 人為的な起源とみなされる-筆者)

上記のIPCCの図は、この分解プロセスをrespiration and fire 118.7 GtC と示している。fossil fuelの燃焼等の人為的な排出量の総計8.9 GtC より遥かに多い量である。不幸にも、炭素サイクルに基づいたIPCCの解析は有機炭素の分解プロセスあるいは土壌呼吸(→土壌呼吸とCO2)の温度依存性を考慮していない。致命的な問題である。地球が温暖化している過程では、温度上昇で有機炭素が分解して発生するCO2の増加量は、人為的な燃焼排出ガスからのCO2を凌駕する量である。そして、例え化石燃料の燃焼をゼロにできたとしても、多くの場合CO2濃度を下げることはできない。以下、このことをHermann Hardeの論文(1)を基に定量的に考察していく。

燃料の燃焼などによるCO2排出量は下の図4のように報告されている。2012年の時のCO2排出量は約28.6 billion tでIPCCによる上の図2の7.8 GtCに相当する。

ca. 28.6 billion t CO2 –> 7.8 GtC (@2012)     (1)

なお以下、頻繁に必要になる単位の換算は次のようである。CO2から炭素換算への量の変換は44/12(CO2/C)=3.67で割る必要がある。

1 billion t = 1 Gt = 1 Pg    (2)
CO2/C(44/12)= 3.67       (3)

図2の上部に記されている589 GtCは、工業化以前のCO2濃度280 ppmで、増加分240 GtCは2012年におけるCO2濃度の上昇分110 ppmである。IPCCが上昇分の全てを人為起源としているのは根拠のない作り話である。参考までに数字の変換は以下のようになる。

(589 GtC × 3.67/44)/(5,135 Eg / 28.9) ≒ 280 ppm
(3.67 = Carbon からCO2 への変換因子, 44 = CO2分子量, 28.9 = Air分子量)
Air Mass = 5,135 Eg (= 5,135 × 1018g) = 5,135,000 Gt

単位の変換は、下記で示すようにExcel、VBAのModuleに関数を定義しておいてスプレッドシート上で利用すると便利である。例えばCO2の589 GtCはユーザー関数、GtCToppmを使って276.5 ppmと変換できる。

fig-3

Fig.3 単位変換にExcelのVBAのFunctionを活用した例 (VBA Coding)

上記の場合、CO2の年間の排出と吸収における出入がおよそ210 GtCだからCO2 の全保持量(589 + 240 GtC)を考えて、CO2の大気中での留時間τは約4年となる。

(589 + 240)GtC・year-1 / 210 GtC・year-1 ≒ 4 years

滞留時間は、大気中の14C の地球表面への吸収速度の結果から確かめられた。この場合は8.6 年だった。(→温暖化の科学の出発点 3)

fig-4
Fig.4 CO2 emissions by fuel

次にCO2変化の動力学は以前整理したように排出と吸収プロセスからなり、その時間のCO2濃度に比例するという一次の速度式で近似できる。(→温暖化の科学の出発点 2)すなわち、CO2濃度Cは(4)式で表される。

C = (eN + eA) × τ × (1 – exp(-t/τ)) + C0 × exp(-t/τ)    (4)
= (93 + 4.2) × 4 × (1 – exp(-t/4)) + 390 × exp(-t/4)    (5)
(93と4.2 は、それぞれ図2の 199.1 GtCと 8.9 GtC をppmに変換した値)

第一項のCO2の大気への排出プロセスは、自然の排出(eN: natural emission)と人為的な排出(eA: anthropogenic emission)からなる。CO2の年間の排出量(ppm)と滞留時間(year)との積が初期値に相当する。第二項は海への吸収プロセスでCO2の初期濃度C0が変化していくプロセスである。(5)式は2012年のケースで、結果を下図に示す。CO2濃度(ppm)の変化を時間(year)に対してプロットしてある。このケースでは、滞留時間が4年であって、10年以内には平衡状態になることがわかる。一方、IPCCは、CO2の滞留時間を1,000年以上とみなしていて8.9 GtCの数10%が長期的に残留し、4 GtCが毎年蓄積して行くと言う。

fig-5
Fig.5 2012年を例にしたCO2濃度(ppm)の経時変化(year)

次に温度依存性を考察する。例えば温度が上がるとCO2濃度が上昇しCO2の滞留時間が長くなる。狭い温度範囲では排出量と滞留時間を一次式で近似できる。そこでCO2の温度に対する濃度変化を下記の式(7)で表す。人為的な排出量は温度に依存しない。工業化以前の1850年のCO2濃度280 ppmをベースに考えると、1960年で0.3℃、2000年で0.74℃温度が上昇したので下記で示すように計算できる。結果の315 ppm、361 ppmはおよそ実測値と一致する。

C = (eN(TE) + eA) × τ(TE)                         (6)
= (eN0 + βe × ΔTE + eA) × (τ0 + βτ × ΔTE)     (7)
(@1960)
C = (80 + 15 × 0.3 + 1.4) × (3.5 + 0.55 × 0.33)     (8)
=  315 (ppm)
(@2000)
C = (80 + 15 × 0.74 + 1.4) × (3.5 + 0.55 × 0.74)    (9)
=  361 (ppm)

fig-6
Fig.6 式(7)で温度上昇値(ΔTE)を0 – 1℃ の範囲で計算した結果
(横軸はΔTE、縦軸はCO2濃度ppm)

0 – 1℃ の温度上昇の範囲で計算したのが上図である。このグラフから、2012年の温度から0.2℃、0.4℃の上昇が、CO2の390 ppmからの増加分20 ppm、40 ppmに相当するものと近似できる。従って、(7)式を使って計算すると下図に示すようになる。緑の部分が自然界からのCO2排出の部分で、濃い部分が植物体に関する量、薄い部分が海から排出される量である(厳密な振り分けはできないので、初期値の割合で振り分けてある)。温度上昇により有機炭素の分解量が多くなり自然界のCO2排出量が多くなることが分かる。人為的なCO2排出量の温度変化はほぼゼロである。19世紀に小氷河期を抜け出して以降、大きな傾向として気温は上昇して来ている。現在も温暖化が続いている。ここに示した結果から、温暖化が続く限り、たとえ全化石燃料の燃焼を止めることができたとしても、大気のCO2濃度は増え続けることになる。

fig-7
Fig.7 2012年の状況で温度だけが上昇したものと仮定した時の自然と人為的なCO2排出量の構成割合の変化

最後に、IPCCの〝現在のCO2の大気濃度が数ppmから数10ppm上昇すると地球の温度が上がる″という仮定へと導く誤りを報告書からまとめておく。

  1. 温度、CO2濃度の経時変化に〝ホッケースティック曲線″を仮定している。
  2. 産業革命以降のCO2上昇分が全て人為的に排出されたものと仮定している。
  3. 概略、CO2の大気における滞留時間が1000年以上だと仮定している。
  4. 朽ちた植物体の温度上昇による分解のCO2発生量を無視している。

文献

  1. Hermann Harde, Global and Planetary Change, 152, 19, 2017
  2. https://ourworldindata.org/emissions-by-fuel

 

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