El Niñoで燃焼排ガスの半分に相当するCO2が放出する

-    温度変化、CO2変化速度、およびEl Niño現象

1979年から人工衛星による地球の温度の観測が始まった。観測、解析しているのは、UAH(The University of Alabama in Huntsville)とRSS(Remote Sensing Systems)の二つのグループである。図 1 には、UAHで測定されている対流圏下部の温度変化を示す。高度、約 3,000メートル付近の温度である。赤い実線は、その月の前後6ケ月を含んだ13カ月平均を示す。上下を繰り返しながら非常に緩やかに上昇している。各高度、および各地域を含めたオリジナルのデータはWeb上で毎月初めに入手可能である。

fig-1
Fig.1 UAHによる人工衛星で観測した対流圏下層における温度(1)

下図は、年ごとのCO2の増加量を示したNOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration)が発表している結果である(2)。NOAAのオリジナルのデータおよびグラフはWeb上で入手可能である。季節によりCO2濃度が大きく変化するので、前年の年間の平均値が示されている。季節によるCO2の変化は、夏の光合成による植物体によるCO2の吸収と、冬の光合成が不活発な時期の植物体の分解に依存している。分解残留物は、土壌中に溜まっていく。前回のIPCCの炭素サイクルの図で示したように、表面の植物体と合わせると炭素換算量で1950-3050 GtCである。化石燃料の埋蔵量446-541 GtCより遥かに多い量である。これらの有機炭素が分解し、温度が上昇すると分解量も多くなるのである。温度上昇で発生するCO2の量は莫大である。これまで何度も述べて来たように、CO2濃度の変化速度は温度変化と良く対応している。下図で示されているNOAAのCO2の年間の変化量(ppm/year)は言わば一年ごとの変化速度である。

fig-2
Fig.2 NOAAの報告によるCO2の年間の変化速度(ppm/year)(2)

温度変化とCO2の変化速度には良い相関あることは、上記の二つのデータを比較すると良くわかる。また温度変化はEl Niño現象と良い相関があることがわかっている。そこでEl Niño指数(3)を使って調べるてみると、これらの三つのデータに良い相関があることがわかる。下図にその相関を示す。なお、6/15/1991のMt.Pinatuboの噴火の時、15か月にわたり 0.6 ℃ 温度が下がっている。従って、この時期の相関は良くない(4)。

fig-3

Fig.3 1979-2022年の間の衛星による温度測定値(対流圏3,000m、13カ月平均anomaly、℃)、NOAAによるCO2増減観測値(ppm/year)、およびEl Niño 指数との相関

CO2濃度は1959年から2022年まで平均1.60 ppm/year(= 3.42 GtC/year)の変化速度であった(単位の換算については前回を参照)。数年おきに起きるCO2増加の変化は、El Niño指数で示すようにEl Niñoによる温度上昇に伴って起きている。例えば1997-99年の時は、増加が約2 ppmでSuper El Niñoと考えられ、温度は約0.5℃上昇し、4 GtC(= 2 ppm)のCO2が新たに大気へ放出された。化石燃料の年間の燃焼によるCO2排出量7.8 GtC(= 4.18 ppm)の半分に相当する量であった。El Niñoが終わって元に戻る過程では、結果的にはCO2が増加分に相当する量が減少する。あたかも下図で示すように、地球の温度が上昇する時には地球からCO2から吐き出され、温度が低下する時には地球にCO2が吸い込まれるかのようである。このEl Niñoに伴う温度変化とCO2の変化は図3で示されるように、長期にわたり普通に起きている。しかも、化石燃料の燃焼排ガス量と比較すると分かるように、変化するCO2は結構大きな量である。

fig-4
Fig.4 1997-99年のEl Niño の時の、図1を拡大した温度変化(0.5℃)とCO2変化(4 GtC: 2ppm)

OCO-2(Orbiting Carbon Observatory-2)は、大気中のCO2を測定するために設計された NASA の最初の衛星である(5)。 OCO-2 は 2014 年 7月2日に打ち上げられ、2年目にEl Niñoと遭遇した。2015年は、2011年 に比べて、温度は0.25℃高く、2011年の人工衛星のモニタリングによる COの観測結果と比較して約 2.5 Gt の CO2 が熱帯地域から発生した(6, 7)。これは、1997-1999 年のEl Niñoでの推定値(4.4-6.7 GtC)の約半分である。報告では、干ばつによる植生摂取量の減少、およびバイオマス燃焼の増加と推測している。しかし、この CO2 の上昇の主原因は、今まで述べて来たように高温における植物分解による変化と解釈できる。

fig-5
Fig.5 人工衛星の観測による2015年のエルニーニョの時のCO2発生量(7)

Murry Salby により提唱されたようにCO2の濃度変化速度drCO2/dtは(1)式で表される。 (→大気中のCO2 濃度は温度で決まる)

eq-1                      (1)

ここでγは定数、(T-T0)は温度変化である。あるいは、

eq-2                     (2)

図3を眺めると、数年おきに温度が変動していてしかもEl Niño現象に良く対応している。そしてさらに温度変動に呼応してCO2が変化している。これは上記の式(1)を裏付ける。この温度変動により放出、吸収されるCO2は感覚的に気づきにくいが、結構多くて化石燃料の燃焼により排出されるCO2に比較しうる量である。

現在(summer/2023)、El Niño現象が始まっているところで各地で高温のところが出ている。並行してCO2の放出が増えているものと推測され、来年のNOAAのCO2の結果報告に表れるはずである。

まとめ
1.エルニーニョ、温度、CO2の変化は40年以上にわたり相関している。
2.ENSOが引き金となり温度が変わる。
3.温度の変化に応じてCO2の吸収・排出速度が変わる。
4.化石燃料からの排出CO2は、上記のCO2の吸収・排出速度に影響しない。
5.大きなエルニーニョでは、温度が0.5℃、CO2が2 ppm変化する。
6.大きなエルニーニョでは、CO2が4 GtC排出される。

References:

  1. https://www.drroyspencer.com/latest-global-temperatures/
  2. https://gml.noaa.gov/ccgg/trends/gl_gr.html
  3. https://psl.noaa.gov/enso/mei/
  4. https://earthobservatory.nasa.gov/images/1510/global-effects-of-mount-pinatubo
  5. https://www.science.org/doi/10.1126/science.aam5776
  6. https://www.nature.com/articles/s41598-017-13459-0
  7. https://www.aaas.org/news/satellite-shows-how-climate-could-alter-global-carbon-cycle
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