地球に入射する太陽エネルギーの30%は成層圏で反射する。20%は地表に達し入射光より波長の長い赤外線として反射する。15%が赤外活性物質に吸収され、5%はそのまま宇宙へ逃げて行く。大気中の赤外活性物質の大部分は水である。CO2はわずか400ppmに過ぎない。残り50%は大気に吸収されたり、大気の分子運動を変化させるのに使われる。多くは水の蒸発などの相変化、対流、熱伝導に消費され地球の温暖化に供しているが文献での明確な記述はない。
気温は大気の分子運動を表す物理量で、大気が獲得したエネルギーとして蓄熱する。従って、窒素、酸素は温室効果はないが、太陽エネルギーを地球の熱としてある一定時間保持する。H2O,CO2の温室効果ガスのみでは熱を蓄えることができない。窒素、酸素が必要なのである。以下このテーマを整理するために、大気に関する必要な物理化学の整理をしておく。簡潔にするために、必要な式は結果のみである。式の導き方はリンクしたウィキペディアなどでたどることができる。
1.運動エネルギー
地球温暖化について考えることは大気の温度を調べることである。それでは、大気の温度は何かというと、大気を構成するガス分子の運動エネルギーである。この場合の運動エネルギーは大気を構成するガス分子の併進エネルギーである。大気中のCO2による赤外線の吸収エネルギーは、気温を決める分子の併進エネルギーに比べるとはるかに小さい。気体の温度と運動エネルギーとの関係は、気体の状態方程式と分子運動論から次式のようになる。
kT= 3/2・mv2 (1)
(k=ボルツマン定数、T=温度、m=分子の質量、v=分子の速度)
2.ウィーンの変位則
黒体からの輻射のピークの波長が温度に反比例するという法則である。
CO2は15µmの赤外線を吸収する。これは(2)式から-80℃の温度に相当する。
熱輻射により黒体から放出される電磁波のエネルギーと温度の関係を表した物理法則である。
j* = σT4 (3)
4.太陽定数
太陽定数Gscとは、地球の大気表面の単位面積に垂直に入射する太陽のエネルギー量のことである。太陽定数は、下図で示すように周期的に変化することがわかっている。
(4)
R = 太陽の半径 (6.96 x 10^8 m)
D = 太陽と地球の平均の距離 (1.5 x 10^11 m)
Fig.2.衛星観測された1979年から2005年にかけての太陽定数の周期変化
天体の外部からの入射光に対する、反射光の比である。入射光の総量に対する反射光の総量の割合である。通常は電磁波の波長も問わず、全帯域についてスペクトル密度を積分する。そのため、入射エネルギーに対する反射エネルギーの割合とも言える。地球の場合は0.3である。
アルベドが0.3ということは、入射光の30%が地球の外側で反射される。70%の透過光のうち20%が紫外線、可視光で、残り50%が赤外線である。エネルギーは紫外線、可視光が赤外線より大きい。
赤外線のうち15µmの波長の領域がCO2により吸収される。大気と地表面で吸収される太陽光の70%が大気を直接、間接的に暖めている。15µmの赤外線が400ppmのCO2に吸収されて、温室効果に主に寄与するというのは誤りである。
6.地球表面の温度
ステファン・ボルツマンの法則から単位面積あたり次式が成り立つ。地球の位置での太陽定数は地球全体に平均すると、その1/4となる。
¼・(1-α)Gsc = σT4 (5)
(αはアルベドで0.3)
従って
= 255K (-18℃)
地球の表面温度は、この計算値より33℃高い。
7.気温減率(laps rate)
高度が上がるに従って大気の気温が下がっていく割合をいう。重力によって支えられている球形の気体であれば、どのようなものにでも適用できる。気体の状態方程式と、気体分子に対する重力によるポテンシャル変化から関係式が導かれる。対流圏(下図の11kmまでの一番下の層)ではある高さzでの温度Tは次式となる。
(z=高さ、g=重力加速度、Cp=定圧比熱)
大気の下層ほど圧力が高く、分子数が多い。気温減率は、定性的には温度は分子の運動エネルギーで決められ、分子数の多いほど全運動エネルギーが大きく、温度も高いというふうに解釈できる。
まとめると、
- 大気の温度とは大気ガスの運動エネルギーである。
- 大気ガスの運動エネルギーは、地球の重力、大気圧のために対流圏では均一に分布しない。
- 運動エネルギーは入射する太陽エネルギーで決まる。
- 地表面で最も運動エネルギーが大きく温度が高い。高所ほど温度は下がっていく。
- 高さと温度の関係は、気温減率(laps rate)の関係式で整理できる。
- 気温減率(laps rate)はCO2の赤外吸収、放散とは全く無関係である。
大気ガスの運動エネルギーとは、言うまでもなくN2とO2の運動エネルギーである。N2とO2こそが地球を33℃暖めている蓄熱体あるいは温室効果ガスとも言える。
“THE HOCKEY SCHTICK”というブログではThe Greenhouse Equationという式を提案している。これは気温減率(laps rate)の関係式を変形したものである。
T = temperature at height (m)
s = height (m)
S = solar constant (= 1367 W/m2)
ε = emissivity (= 1 assuming Sun and Earth are blackbodies)
σ = Stefan-Boltzmann constant (= 5.6704 x 10-8 W m-2 K-4)
g = gravitational acceleration (= 9.8 m/s^2)
m = average molar mass of the atmosphere (= 0.029kg/mole)
α = albedo (= 0.3 for earth)
C = heat capacity of the atmosphere (= Cp ~ 1.5077 for Earth)
P = surface pressure
R = gas constant (= 8.3145 J/mol K)
e = 2.71828
この式によると対流圏の任意の高さの温度を計算できる。対流圏の半分の高さがステファン・ボルツマンの法則で計算した-18℃または255Kであり、地面が+15℃または288Kである。
The Greenhouse Equationは見かけは複雑だが、中味は比較的簡単である。ステファン・ボルツマンの法則から温度は(5)式で計算できる(εはemissivityで1と見なしてよい)。
ここで、基本的な熱力学の関係式を思い出す。
mgΔh = RTln(P) (9)
対流圏の温度は高さの一次式で表されるLapse Rate の関係式に上記の式を使う。
T = To – g/C x h (7)
ここで、ステファン・ボルツマンの法則から求められる温度を、対流圏の真ん中の高さに相当するものとする。
T = Te – g/C x (s + Δh) (10)
そうすると次式が得られる。
Lapse Rate の詳細な計算例は、“THE HOCKEY SCHTICK”のブログで示されている。重要なことは、Lapse RateがCO2の赤外吸収、放射とは全く無関係であること、入射する太陽エネルギーと地球の重力下におけるN2とO2の運動エネルギーで決まるということである。
対流圏の高さで気温が決まり、その関係式がわかっているので、対流圏の全熱容量が計算できることになる。全熱容量が時間とともに大きくなっていれば、対流圏は温暖化していることになる。The Greenhouse Equationで決まるある高さhでの温度をT(h)とする。全熱量量Jallは、大気の高さと組成の平均比熱をCav、単位体積の大気の平均質量をMav、地球の全表面積をSallとすれば、
である。
比熱と質量は厳密には圧力と温度で変わるので複雑である。CavとMavは大気の組成の変化で変わるが、CO2は400ppmなので数ppmの変化は無視しても良い。水は1~2%だが、相変化があるのでその影響は小さくないはずである。要するにLapse Rateが(eq.8)で近似できるという前提に立てば、CO2の15µmによる温室効果は非常に小さいことになる。
Lapse Rateを使った温室効果については、最近ネットではgravito-thermal effectと言われている。このキィーワードで検索するといくつかヒットする。
前にも示したように、気温は大気の運動エネルギーで決まるのであり、CO2の運動エネルギーは問題にならないぐらい小さい。入射する太陽エネルギーと大気圧の変化に依存するLapse Rateで決まるとも言える。
エネルギー関連の文献を眺めていると、蓄熱材に関する特許を少なからず見かける。主なものは、物質の相変化、水和物と無水物との変換を利用したものである。蓄熱材は省エネルギーの技術開発の鍵である。
我々が注目している大気も、蓄熱材と考えられ、気温を暖かくして地球上の動植物を繁殖させてくれる。大気中のCO2が吸収する赤外線は15µmであって、太陽エネルギーのうちでははるかにエネルギーは小さく強度も弱い。大気こそが、運動エネルギーという形態でエネルギーを蓄熱し、地球表面を保温しているのである。