20年前(2002年)のNHKスペシャル、「地球温暖化で島が沈む、南の島、ツバルの選択」は、南太平洋のサンゴ礁の島「ツバル」が、地球温暖化による海面上昇で沈む国だと放送した。しかし、ツバルでの目立った海面上昇は観測されていない。沈没説にはどうも政治的な臭いがついて回る。
2006年には、「地球温暖化による今後100年の気候異変を最新科学で迫る」という二夜連続のNHKスペシャルの番組で「異常気象、地球シミュレータの警告」が放送された。しかし、異常気象の統計的データはまだ観測されていないにもかかわらず、シミュレーションの結果を述べるのみだった。どうも、異常気象説にも政治的な臭いがついて回るようである。
つい先日(2023年、2月)、NHKスペシャル、混迷の世紀、第7回が放送された。ロシアのウクライナ侵攻後に、脱炭素政策がゆらぎ始め、灼熱地球の恐怖があるのだという。
Fig.2 NHKスペシャル、混迷の世紀、第7回 (Webから)
証拠のない仮説を肉付けするために、発足当時のローマクラブではシミュレーションが用いられた。IPCC でもこれが踏襲されている。「恐怖に訴える論証」をするためにシミュレーションを実行し、結果が如何に恐怖に満ちたものかを示そうとした。
- 温暖化は人為的な行動変化により起きる。
- CO2が増えると恐ろしい地球環境になる。
- したがって温暖化を抑制するには、CO2を減らすのが真の答である。
恐怖、不安、疑念(fear, uncertainty, and doubt、FUD)は、販売やマーケティングにおける「恐怖に訴える論証」を指す用語である。企業は人為的温暖化の仮説に否定的な態度を取れば企業イメージを損なう恐怖がある。だからネガティブなことは言えないのである。
上記「NHKスペシャル」では恐怖を煽った。シミュレーションの結果をまるで事実であるかのように報道する。CO2による人為的温暖化で異常気象、巨大災害が起きるという。科学的証拠なしに危機感を煽り恐怖に訴えるわけである。さて前回に続いて、IPCCへ提出されたICSFのレビューをもとに今回は海面変化について整理することにする。
地球平均海面 (global mean sea level: GMSL) は最後の氷河期の終わりから上昇しており、20,000 から 7,000 年前の間に約 130m 上昇した (図 3)。その後、小氷期 (約 1350 年から 1850 年) などの寒い時期での中断を挟んで、上昇率は遅くなった。現在の GMSL 上昇期は、小氷期が終わり、アルプスの氷河の融解が明らかになった 1850 年頃に始まる (図 4)。
Fig. 3. Curry (2018) の図 3.1 を参照した、最終氷期の最大値 (約 21,000 年前) 以降の推定世界海面変動。この図は、Robert A. Rohde が公開データから作成したもので、地球温暖化アート プロジェクトに組み込まれている。
Fig. 4. 19 世紀初頭以降の地球平均海面偏差 (mm、青) および排出された炭素 (数百万トン、赤)。 Curry (2018) の 図 4.1 から再掲。 (海面: Jevrejeva (2014)、炭素: CDIAC (2014))。
図 4 から、GMSL がCO2が増える 1950 年より以前に上昇し始めていることは明らかである。 1850 年以降の上昇率は一定ではなく、数十年にわたる変動を示す。Douglas (1992) は、観測された GMSL 上昇の加速が有意であるためには、少なくとも 50 年間の観測が必要であると言う。それ以外の場合は、単なる短期変動である。図 4 の Jevrejeva らのデータが示すように、20 世紀は 1.9 ± 0.3 mm/yr の傾向を示している。
最近、NASA 主導の研究により、過去 120 年間の海面上昇の原因を探るために、海面モデルと衛星観測のデータを組み合わせた結果が報告されている (Frederikse et al. 2020)。この研究で得られた 1900 年から 2018 年の期間にわたる GMSL の上昇を図 5 に示す。この図も、数十年にわたる変動性を示す。データの分析は、上記の値と比較して、20 世紀中の GMSL 上昇の平均速度を 1.4 mm/年に下方修正する必要がある。 1993 年から 2018 年までの調査で再構築された潮位計データによって示された GMSL の上昇率は、衛星の観測値とよく一致しているようである。両方の上昇率は約 3.3 mm/年である。
Fig. 5. 1900 年から 2018 年までの各因子の補正後の潮位計で計測したGMSL. Source: Frederikse et al. (2020)
Frederikse らのデータはまた、1934 年から 1953 年の 20 年間の GMSL 上昇率が 3.3 mm/年であり、1993 年から 2018 年の期間とほぼ同じであることも示している。 Frederikseらによると、その期間のGMSLの上昇率が平均を上回ったのは、氷河とグリーンランド氷床からの平均を上回った寄与によるものであり、1935年頃のグリーンランドの寄与は2018年よりわずかに大きかったという。
Fig.6 GMSLの1901年から2018年における上昇率
AR6 SPM はGMSLについて次のように述べる。1901 年と 2018 年の間で0.2m 上昇した。平均上昇率は 1901 年から 1971 年まででは 1.3mm/y だった。1971 年から2006 年の間に 1.9mm/y に増加、さらに2006年から2018年の間には3.7mm/yへ増加した。増加率は変化し暖かだった 1930 年代とほぼ同じだった。
100 年前にさかのぼる陸上観測は、GMSL が加速せず 1-2mm/y で継続しているすることを示す。 1993 年までさかのぼる衛星の数値は、約 3mm/y の傾向を示す。 3.7mm/y の数値を使用することは、IPCC のチェリーピック(母集団の中から自分に必要な一部のみを選択すること)である。 GMSL が現在 3.3mm/y の上限平均値で上昇しているとしても、2100 年までに海面が 0.25m 程度上昇することを意味するだけである。今世紀の気候危機を示すものではない。世界の平均海面が現在、過去 3,000 年よりも速い速度で上昇しているという AR6 SPM の主張には根拠がない。ローマ時代に海面がわずかに上昇したと推測できる。そして中世の温暖化期は現在と同様の割合であったが、おそらく小氷期に減少した(図4)ものと思われる. 図3 に示すように、過去 3,000 年間の世界平均海面の変化は 1m 未満であったものと思われる。地球温暖化の結果、ツバルを含めてモルディブと太平洋 – インド洋の島々を、 メディアは壊滅的な海面上昇が島の海岸を飲み込んでいるという主張する。その主張は根拠のないものである。
Fig.7 709 の島々の平面積の変化 (Duvat,2019)
2019 年に、Duvat は太平洋とインド洋の島々の平面積の変化を解析した。1980年代から 89% に相当する 709 の島々が安定しているか、サイズが大きくなっていた。10 ヘクタールを超える島で縮小した島はなかった。そして5 ヘクタール以上の島の 1.2%でサイズが縮小していたのみである。2000年 以降の新しい分析も、2013年 から 2017年 において安定しているか拡大したかを示している。
海洋の温暖化と酸性化(大気中のCO2が増えて海水に溶解するとpHが下がるものと推定する)について SPM は、最近の海洋の温暖化は前例がないと主張する。しかし、SPM には古気候と、最近のローマ時代と中世の温暖期のデータが不足している。Humlum による海洋温度の継続的なデータがある。最近のデータはここで得られる。そこで、彼は、深さ 1900 m までの世界の海洋の温度は、2011 年以降、約 0.05°C しか上昇していないと結論付けている。また、2013 年以降のこの増加は、主に赤道付近の北緯 30 度から南緯 30 度の間で発生した海洋変化によるものである。対照的に、北緯 55 度より北の北極圏の海域では、2011 年以降、深遠部で混合された海洋温度は低下している。南極付近の南緯 55 度より南では、気温は安定している。さらに詳しくは Humlum の”State of the Climate 2019”を参照できる。観察結果は、海洋加熱に関する SPM の結論に大きな疑問を投げかけており、海洋の温暖化について前例のない何かがあることを示しているわけではない。
海の「酸性度」または pH は、7.5 から 8.5 の間で自然に変化する。海洋酸性化の地質学的記録 (Science 535、p1058、2012) は、貝殻を持つ海洋生物が過去 3 億年にわたってpH が 7.5 から 8.1 の範囲で繁栄したことを記録している。サンゴの白化は、多くの場合、気候変動とそれに伴う海洋温度と pH の変化に起因する。最近の研究結果 (Kamenos and Hennige, 2018) は、白化が 1750 年代と 1890 年代に著しく高かったことを見い出し、サンゴの白化が自然現象であり、地球温暖化とはほとんど関係がないことを確認した。
結論として、SPM は海面上昇、海水温変化、海水酸性度に関して誤った主張をしている。さらに、NHKは「恐怖に訴える論証」の手法を改めて、客観的な科学データに基づいた中身のある「NHKスペシャル」の新作を望みたい。