戻ってきたホッケースティック曲線 – IPCCが繰り返す茶番劇

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)が2021年から2022年にかけて公表された(和訳)。驚くことに、そのAR6に再び「ホッケースティック曲線」が戻ってきたのである。前回、この曲線の背景を詳しく述べたが、それを振り返ってみると今回は本当に恥ずべき事だろう。WG1 政策立案者向け要約 (SPM)に対するWeb上のレビューに、科学的側面が簡潔に述べられているので、以下整理しておく。

  • 今度の「ホッケースティック」グラフ (Fig.1左図) は、過去 2,000 年間のさまざまな期間の異なる指標を組み合わせたものである。これらの組み合わせにより、現在十分確立されている温度変動、すなわちローマ時代と中世の温暖期そして続く小氷期、が否定されることは受け入れられない。

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Fig.1 AR6におけるホッケースティックグラフ

  • SPM ではいわゆる「異常気象」の発生確率が誤って伝えられている。本レポートのドラフトの正確な描写と比較して、多くのカテゴリで統計的な傾向と一致しない。
  • 北極、南極の変化は SPM で誤って伝えられている。特に過去 15 年間、北極の海氷には事実上変化が見られない。同様に、海面の変化が、SPM で誤って表現されている。2100 年まで緩やかに上昇する可能性があるとしても「気候危機」を示すものではない。
  • CMIP6 気候モデルは、AR5 の気候感度の大きな CMIP5 モデルよりもさらに気候感度に敏感にである。実際の気候感度は低いという査読済みの科学的証拠を無視している。モデルは、地球科学と炭素バランスについて間違った結論を与える。また 2100 年までの地球の気温上昇の可能性は、「気候危機」を示すものではない。
  • SPM は実際には存在しない「気候危機」を誤って指摘している。 SPM は、大きな社会的、経済的、人間的な不適切な対処法を正当化するために使われることになる。提案された政策への影響の大きさを考えると、SPM は最高の科学的基準を持ち、IPCC 内で非の打ちどころのない科学的完全性を示さなければならない

2010 年に、当時の国連事務総長および IPCC 議長の要請により、InterAcademy Council が IPCC 手順の独立したレビューを実施したことを思い出してほしい。その勧告の中には、レビューアのコメントが著者によって適切に考慮され、真の論争が IPCC 報告書に適切に反映されることが含まれていた。 AR6 SPM は、これらの推奨事項が実施されているという確信を抱かせない。残念ながら、AR6 WG1 SPM は、COP26 での政策議論の根拠となる客観的な科学的根拠を提供しなかった。また、CO2 レベルの小さな上昇と温暖化は、地球上の農業、林業、および人間の生活に与えるプラスの影響を与えることも指摘してない

さらに以下は「ホッケースティック」グラフ (Fig.1左図) についてのコメントである。

統計学者Steve McIntyreのコメントは衝撃的である。彼は、SPMの産業革命まで温度変化が小さいという結果が、PAGES 2k (過去 2000 年を指す 2k の過去の地球規模の変化、スイスのベルンに本拠地を置く国際的な古気候学グループによる) として知られる一連の研究に由来することを突き止めた。これらは、論文として発表されたものではない。

McIntyre(1947-)については前回も少し述べた。詳細はWikipediaと彼のBlogであるClimate Auditを参照。

最も大きなコメントは、十分に確立された高解像度アルケノン堆積物 (海藻によって生成される) のプロキシが意図的に省略されていることである。これらの堆積物には石灰岩層のものも含まれ、数百万年前のものまである。 PAGES 2kの気温の再構築の目的は、現在の気温を中世および0-1000年の気温の推定値と比較することだった。 しかし、0-30N ネットワークには 41 のプロキシがあるが、AD1200 より前の値を持つプロキシは 3 つだけで、AD925 より前の値を持つプロキシは 1 つしかない。

アルケノン(Alkenone)(ref.から再掲)- 炭素数37~39の長鎖不飽和アルキルケトン(アルケノン, alkenone)は、広く世界中の海底堆積物中に見出される。バイオマーカー化合物の一種である。石油、石炭などにも独自のバイオマーカー化合物が含まれ研究目的によっては有用な化合物である。1970年代末に、はじめて海底堆積物から同定された。その後、培養試料や堆積物中の円石藻化石(石灰質ナノ化石)の研究の総合的な考察から、ハプト藻(ハプト植物門)ノエラエラブダス科(Noelaerhabdaceae)とイソクリシス科(Isocrysidaceae)が生合成することがわかった。この化合物の不飽和度(二重結合の数)が生育時の水温に直接比例して変化し、かつその不飽和度は堆積後もよく保存される。このことから過去の水温を復元する古水温計として、地球化学や古海洋学、古気候学などにおいて広く応用されている。さらに、アルケノンの4不飽和比は古塩分指標に、アルケノンの炭素同位体比は過去の大気二酸化炭素濃度のプロキシとして使われる。

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Fig.2 アルケノンの化学構造

最初の1000年までの値を持つ単一の長いプロキシは、北アフリカ沖の海洋コアのMg/Ca値から再構築できる。その値は不規則に減少してきた。過去 2000 年を通じて、20 世紀にはごくわずかに回復するだけである。

Mg/Ca 古温度測定の基本的な根拠は、海水から沈殿した方解石中のマグネシウムの量が温度に依存することである。有孔虫由来の方解石の Mg/Ca 比は、海面水温の解釈に広く使用されてきた。

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Fig.3 気温によるMgとCaの取り込みの違い

McIntyreは続けて、PAGES2k と新しいホッケースティックから得られた主張を批判している。

温度プロキシは、温度に線形に関連していると想定されている。したがってネットワーク内のプロキシは、一貫した外観を持っている。PAGES2019 0-30N ネットワークでは発生しない。

PAGES2019 0-30N ネットワークにおいては、中世以前をカバーするプロキシは、驚くほど少ない。。過去 15 年で、そのようなシリーズは多くはなってはいるが、AD925 より前の値を持つプロキシはひとつだけである。

ネットワークは時間の経過とともに不均一になる。過去 2 世紀では、サンゴプロキシが多い。任意の形式の回帰は、適合するネットワークが十分に大きい場合にのみ、再構築できる。少数の長いプロキシに対する回帰は、非常に貧弱となる。

30-60N 緯度帯は、古気候コレクションで多くの注目を集めている。世界の他の地域を合わせたよりも多くのプロキシがある。 30-60S 緯度帯は正確に同じサイズだが、ほとんど研究されていない。30-60S 緯度帯がほぼ完全に (約96%) 海であることを考えると、PAGES 2019 がオーシャン コア プロキシを使用しなかったことは奇妙である。

アルケノンまたは Mg/Ca 測定値から海面温度を推定するための物理式が存在する。樹木の年輪幅から摂氏温度への変換は、その場しのぎの結果である。普遍的な式ではなく、統計的フィッティングである。アルケノン値はすべて測定されている。現代の海洋上で、既知の海洋温度にうまく適合している。加えて、海洋コアのアルケノン値は、より長い時間、中新世までもさかのぼることができる。

SPM で提示された「ホッケースティック」には、厳密な科学的根拠がないと結論できる。そして、過去2000年間の気候変動を誤って伝えている。最近の気候変動を「前例のない」ものとは結論できない。

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上記レビューは言う。「SPM は最高の科学的基準を持ち、IPCC 内で非の打ちどころのない科学的完全性を示さなければならない。」その通りである。AR6 WG1 SPM は科学的に貧弱である。日本においても、気象庁、環境省で独立したレビューを実施して率直なコメントを提出して頂きたいものである。

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