気候変動と自然変動 – アメリカの実例から

7,000 年前から 5,000 年前の間は、第四紀の完新世 (Holocene) で暖かい時代だった。そして 5,000 年前から 3,500 年前にかけての温暖な時代に四大文明が栄えた。青森の三内丸山遺跡もこの時代に相当する。以後、温度が徐々に下がり、小氷期が 3,000 年前に始まった。西暦 0 年、1,000 年前後の温暖期を挟んで、小氷期は1700 年代半ばに終了し、現代の温暖期が始まる。

アラスカの州都ジュノーから北北西 20 kmのところにメンデンホール氷河 (Mendenhall Glacier) がある。このあたりは、西から吹きつける湿った大気のせいで降雨量の多いところである。私が訪れた 8月の時も雨模様のどんよりした日であった。林の木々も苔むしている。冬には多くの雪が降る。北部のジュノー氷原の積雪となりメンデンホール氷河に供給される。小氷期が終わった1700 年代半ばの時点で、メンデンホール氷河は最大の前進点に達し、その終点は現在の位置から 4 km下ったところにあった。メンデンホール氷河は 1700 年代半ばに後退し始め、氷河のかっての先端は今、湖になっている。展望台にはこの先端の後退を記した説明図がある。

fig-1
Fig.1 ジュノーから20 kmのところにあるメンデンホール氷河 (8/2/2014)

fig-2
Fig.2 上記氷河湖から流れる川下に遡って来た紅鮭 (8/2/2014)

下図は200年以上にわたる後退の様子である。終点は 20 世紀に 3 km 後退し、氷河の下部は 1909 年以降 200 m 以上薄くなっている。1948 年から 2000 年までの氷河全体の体積損失は 5.5 km3 と推定されている。CO2の濃度上昇が顕著になる前の1700年半ばから氷河の後退は始まっている。氷河の後退は、CO2による影響というより自然サイクルによる現代の温暖期への移行のためだと考えられる。

fig-3
Fig.3 200年以上にわたるメンデンホール氷河の後退。中央の数字は氷河の先端とその年代。

次に、古代のプレート移動による気候変動の例である。アリゾナ州北東部に化石の森国立公園(Petrified Forest National Park)がある。現在ここは砂漠地帯である。三畳紀は、現在から約2億5190万年前に始まり、約2億130万年前まで続き、最初の哺乳類が現れた時代である。三畳紀には北極から南極に至るパンゲア大陸と呼ばれる超大陸が形成されていた (plate tectonics)。

fig-4
Fig.4 考えられる三畳紀末の超大陸パンゲア

三畳紀後期において、この砂漠地帯は熱帯に位置し、乾季と雨季があった。約2億年前、大規模な噴火による地球寒冷化が起きたと言われている。非常に大きな気候変動である。三畳紀末、林の木々は火山灰を含む砂の層に周期的に埋められた。埋められた木が火山灰の中で化石化し、二酸化珪素に変わり、鉄とマンガンの酸化物で着色された。

fig-5
Fig.5 木が化石化した石の景観 (10/25/2021)

fig-6
Fig.6 化石の森国立公園の景観 (10/25/2021)

 fig-7
Fig.7 化石の森国立公園の景観を下から仰ぐ (10/25/2021)

次は、隕石などの地球外の物体と衝突した場合の変動例である。化石の森国立公園から西へ約 120 km のところにメテオ・クレーター (Meteor Crater or Barringer Crater)がある。昔、ソルトレークからフェニックスへ行く時にも飛行機から見たことがある。パイロットが眼下にクレーターが見えるとアナウンスしたものである。今から約50,000年前に地球に衝突した隕石によって形成されたクレーターであり、直径約1.2キロメートル、深さ200メートルである。クレーターを形成した隕石が衝突した時代、この地は現在よりも寒冷湿潤な気候であり、マンモスが生息する草原地帯であったという。衝突後、地球の気候を変動させるまでには至らなかった。

fig-8
Fig.8 直径1.2キロメートルのメテオ・クレーター (10/25/2021)

プレート変動は必ずしも古代の話ではない。ハワイ諸島はプレート変動により西北西へ10cm/year の速度で現在まさに動いている。それに伴い火山からの噴出物は、諸島の東側に堆積することになる。現在の諸島は約500万年かけて作られた。諸島の一番東に位置するハワイ島は、一番新しい島で300,000 年経つ。

fig-9
Fig.9 ハワイ諸島は西北西へ10cm/year の速度で動いている

ハワイ島には5つの火山があり、西のコハラ山地 (Kohala) が最も古く現在も活動中の南東部に位置するキラウエア (Kilauea) 火山が最も新しい。堆積物により島そのものも、少しずつ大きくなっている。溶岩の粘度が低いので山の裾野はなだらかである。

fig-10
Fig.10 ハワイ島の5つの火山、東の火山ほど新しい

私が降り立ったコナ (Kona) の飛行場は写真に示すように溶岩石の中に作られている。右端に滑走路が見える。この辺りの溶岩は、コナの東にある1801年のフアラライ山 (Hualalai) 火山の噴火によるものである。火山が貿易風を遮るので、島の東側は雨が多く西側のこの辺は雨が少ない。溶岩の土地と少雨で緑が限られる。島の中腹に広がるコーヒープランテーションは、一年を通じて乾燥したやや冷涼な温度を利用している。有名なコナコーヒーは、ブルーマウンテンに次いで高価である。

fig-11
Fig.11 コナ飛行場(右側)付近は溶岩でできた土地が広がる (12/10/2019)

一番高い山は、マウナケア(Mauna Kea) であり海抜 4205 mである。2019年に訪れた時は、道路が封鎖されていて頂上まで行くことはできなかった。マウナケア山頂の30メートルの天文台の建設に抗議する人々により、道路が封鎖されていたからである。彼らはマウナケアを聖地とみなしている。マウナケアから南側に、マウナロア (Mauna Loa,4169 m) が見える。地球で最も体積の大きい山でもある。堆積物は、ハワイ島の半分を占める。ここには、アメリカ海洋大気庁(NOAA)に所属するマウナロア観測所がある。1957年から温室効果ガスなどの変化を長期的に観測している。

fig-12
Fig.12 ハワイで一番高いマウナケア火山の方向を望む (12/12/2019)

キラウエア火山を訪れた時は、所々蒸気を噴出している以外は、静かであった。2018年の4ヶ月半にわたる噴火で外輪山が倍以上になったという。ハワイの火山は溶岩の粘度が低く、爆発性ではないので気候変動に至るようなことはない。

fig-13
Fig.13 キラウェア火山のカルデラ (12/13/2019)

島の南部に、プナルウ黒砂海岸がある。黒い溶岩石と砂で覆われた海岸である。玄武岩でできた溶岩が海水で急冷されてできたという。もう少し南に行ったところが USA の最南端である。ハワイ諸島では、green turtle と呼ばれる中型の海亀が見られる。絶滅危惧種に指定されていて、3メートル以内に近づいたり、触ったりすることは禁じられている。

fig-14
Fig.14 ハワイ島南部のプナルウ黒砂海岸で (12/15/2019)

This entry was posted in Global Warming. Bookmark the permalink.

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

You may use these HTML tags and attributes: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>