気候変動に及ぼす主な自然変動

これまでのブログで地球の温度が変化し、その結果 CO2 が変わると言うことを述べてきた。現代の地球の温度は、CO2 の影響ではなく自然のサイクルで変わっているという主張である。そして、自然サイクルについて分かっていることをまとめようとすると、詳細について我々はまだまだ解明できていないことに気がつく。

気候変動とは地球表面のエネルギーが変動することであり、地球に降り注ぐ太陽エネルギーの変動に密接に関係している。また太陽エネルギーを受け取る側の地球の公転、自転の変動も関わってくる。地球は水の惑星であり、水は比熱、熱容量とも地球上では圧倒的に大きい。海は非常に大きなエネルギーを蓄えていて、表面、上下の方向へゆっくりと動いている。海が気候変動に大きく関わっていることは間違いない。

以下では、太陽の変動、地球の変動、海の変動について重要と思われることをまとめてみた。さらに、それら以外で最も影響の大きい火山の噴火について触れてみる。

1. 太陽の変動

太陽周期活動 – 太陽の活動が活発になると黒点の数は増える。そして黒点の数は 11 年周期で変動する。ある周期と次の周期では、先行黒点と後行黒点の磁場極性や極磁場の極性の反転があり、この効果も考えると周期は 22 年になる。11 年周期の変動と地球温度の変化には相関がみられる。11年周期は太陽の活動が大きいとやや短くなり逆に小さくなるとやや長くなる。下図は、その変動周期と北半球の平均気温変化を比べたものである。

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Fig.1 太陽黒点数の変動周期と北半球の平均気温変化

太陽磁場とそれに伴って、地球磁場が変わると地球に到達する宇宙線の量が変化する。そして、宇宙線の量と雲の量には相関があることが見いだされている。雲の量が変われば温度も変わる。

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Fig.2 黒点数(黒)と宇宙線量(灰)の変動

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Fig.3 低層雲量(青)と宇宙線量(赤)

太陽の極小期と極大期 – 通常より弱いいくつかの太陽サイクルが数 10 年あるいは 100 年間重なると極小期として知られる現象が起きることがある。この極小期が過去 11,000 年の間 25 回起きた。最近の良く知られた例が、1645 年と1715年の間に太陽黒点が消失したマウンダー極小期である。日本では、マウンダー極小期に、享保、天明、天保の三大飢饉が起きた。下表で示すように、ローマ温暖期、中世温暖期さらに現代の温暖期は極大期に関連している。

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Fig.4 太陽黒点の変化

 Table 1. 太陽の極小期と極大期とおよその時代

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2. 地球の変動

地球公転軌道離心率の周期的変化(下図右)、自転軸の歳差運動(下図中央)、自転軸の傾きの周期的変化(下図左)という 3 つの要因により、日射量が変動する。氷期と間氷期といった気候変動には 2.3 万年、4.1 万年、10 万年の周期変動が認められていて、ミランコヴィッチサイクルとして知られる。

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Fig.5 地球の公転軌道、自転軸の歳差運動、自転軸の傾き

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Fig.6 ミランコビッチの肖像がデザインされているセルビアの2000ディナール紙幣

3. 海の変動

エルニーニョ現象 (ENSO: El Niño-Southern Oscillation) とは、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く。逆に、同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象はラニーニャ現象と呼ばれ、それぞれ数年おきに発生する。

太平洋の熱帯域では、貿易風と呼ばれる東風が常に吹いているため、海面付近の暖かい海水が太平洋の西側に吹き寄せられている。西部のインドネシア近海では海面下数百メートルまでの表層に暖かい海水が蓄積し、東部の南米沖では、この東風と地球の自転の効果によって深いところから冷たい海水が海面近くに湧き上っている。このため、海面水温は太平洋赤道域の西部で高く、東部で低くなっている。

ラニーニャ現象が発生している時には、東風が平常時よりも強くなり、西部に暖かい海水がより厚く蓄積する一方、東部では冷たい水の湧き上がりが平常時より強くなる。このため、太平洋赤道域の中部から東部では、海面水温が平常時よりも低くなる(気象庁)。

1997–1998 年のエルニーニョと 1998–1999 年のラニーニャは近年では最も大きな ENSO 現象のひとつであった。下図は人工衛星による温度変化のデータ(UAH)である。1997–1998 年のエルニーニョは ③ であって記録的な高温であった。さらに ⑥ がエルニーニョ、②、④、⑤、⑦ がラニーニャである。Fig.8 のエルニーニョ(赤)とラニーニャ(青)の発生時期と対比できる。“4.火山の噴火”で述べるように ① はピナツボ火山による影響で温度が下がった時である。

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Fig.7 人工衛星による温度変化(UAH)

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Fig.8 エルニーニョ(赤)とラニーニャ(青) の発生時期(気象庁)

地球規模の「全球規模熱塩循環流」が知られている。全球規模熱塩循環流とは、メキシコ湾流により熱帯・亜熱帯域から運ばれてきた温かい海水が、グリーンランド海とその南西にあるラブラドル海で冷やされて沈みこみ、海底をはうように大西洋を南下し、南極周辺の海でできた深層水と合流したのちに、インド洋や太平洋へと流れわきあがる循環である。

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Fig.9 大西洋を起源とする全球規模の熱塩循環流

その循環のうち、大西洋だけで循環する流れを「大西洋熱塩循環流」と呼ぶ。 莫大な熱を運ぶため気候に大きな影響をおよぼすほか、「大西洋数十年規模振動」のメカニズムの基盤だと考えられている。大西洋数十年規模振動とは30~40年おきに寒冷化と温暖化をくり返す現象である。「北大西洋振動」(NAO: North Atlantic Oscillation)にも関係する。北大西洋アイスランド低気圧アゾレス高気圧の間で、気圧が伴って変動する現象である。ヨーロッパや北アメリカの気候に影響をおよぼす。

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Fig.10 冬のグリーンランド海と北大西洋振動の関係

4. 火山の噴火

A.D.539 年または 540 年に、エルサルバドルのイロパンゴ火山 (Ilopango volcano) が噴火して、その噴煙は成層圏まで達したと言われる。世界中で冷夏、干ばつ、飢饉に加えてペストが蔓延し、およそ 20 年にわたって約 2℃ 温度が下がったと言う。

1991年 6月15日、フィリピンのピナツボ火山 (Mount Pinatubo) が噴火した。20 世紀では、1912 年のアラスカのノバルプタ (Novarupta) 火山の噴火に次いで大きいものであった。硫酸エアロゾルを成層圏まで放出し、Fig.7 のグラフ上の ① で示すように15か月にわたり 0.6 ℃ 温度が下がった。

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Fig.11 フィリピンのピナツボ火山の噴火

下図は大気の CO2 分析結果である。1991 年のピナツボ火山の噴火の時、15か月にわたり 0.6 ℃ 温度が下がった。それに応じて CO2 の上昇曲線がやや鈍化している。一方、1997–1998 年のエルニーニョの時は温度が上昇した。温度の変化に呼応して CO2 の曲線がやや上向きである。地球の温度が変化し、その結果CO2が変化することを裏づける。

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Fig.12 NOAAによる CO2 濃度分析値の変化

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