温度とCO2 変化の時間差について

地球表面が平衡状態にあれば温度とCO2 濃度の値はほぼ一定である。前回でCO2の濃度が温度によりコントロールされるということを述べた。平衡状態から温度が上がればCO2濃度も上昇する(Thermally-Induced CO2)。表面温度は均一ではないから、温度の高いところからより多くのCO2が放出され大気中で拡散、混合する。従って、温度の変化によりCO2の行き着く平衡状態への変化まで時間を要する。これがここで言う時間差(time lag)である。

系統的な大気中のCO2の分析1958年にハワイの Mauna Loa で始まった。だから、正確なCO2濃度の値は高々過去70年以内しか得られない。それ以前のCO2の値は南極などの氷床コアサンプルの分析により得られる。但し、コアサンプル内におけるCO2の拡散、混合のプロセスは大気中のプロセスに比べるとはるかに遅い。長い time lag の結果となる。以下、Murry Salby の講演から時間差(time lag)についての考察の概略をまとめる。

下図はアイスコアサンプルの分析例である。推定されるCO2濃度と温度の変化を時間に対してプロットしてある。良い相関関係があるのがわかる。恐らくCO2と温度のどちらかが変化して、他方が追随したように思われる。卵が先かニワトリが先かの現象である。こうした場合は相互相関関数 (cross correlation function) を使って解析される。相互相関関数を使った解析結果では、Fig.2が示すように温度が1500年先行していることが分かる。

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Fig.1アイススコアサンプルの分析例

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Fig.2 アイスコアサンプルの相互相関関数による解析例

下図はCO2の観測が始まって以降の大気の温度とCO2の分析例である。相互相関関数を使った解析では、温度とCO2の相関は悪いものの温度が10ヶ月先行している(アイスコアのFig.2とは時間スケールがかなり異なる)。

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Fig.3 大気の温度とCO2濃度の変化

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Fig. 4 大気の相互相関関数による解析例

温度とCO2の相関関係の解析は以下のようにして得られる。詳細は論文での公表を待つしかないが、今のところ一連の講演の内容についての論文は出されていないようである。前回示したようにCO2の濃度変化は温度変化の積分で表せられる。CO2の濃度変化と温度変化を、それぞれ任意の周波数を持つ時間の三角関数で表し、フーリエ変換すると下記のように示される。位相のずれが時間差である。

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Fig.5 相互相関関数による解析

さらにアイスコアの場合は、氷表面層での混合と内部でのCO2の変化プロセス(Non-conservative Influence)ついて考える必要がある。

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Fig.6 氷中での想定されるプロセス

Non-conservative Influence についての解析はやや複雑であるけれども、アイスコアの分析値と実際の推定されるCO2の値との比較は下図のようになると言う。アイスコアによるCO2の分析値はかなり過小評価されているらしい。例えば、下図のグラフによると2万年前(Frequency Kyr-1 = 0.05)のケースでは、当時の大気中の値は、分析したコアサンプルの値の倍の値だったということになる。数万年前のコアサンプルの分析結果はCO2が190-290 ppmという値が示されているが実際はもっと高かったかも知れない。

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Fig.7 Non-conservative プロセスの影響

まとめると、

  1. CO2濃度の変化は、大気の温度変化と相関がある。
  2. 温度変化が先行しCO2濃度変化が追従する。
  3. CO2の混合プロセスが時間差  time lag として表れる。
  4. 氷中では混合プロセスにそれ以外のプロセス(Non-conservative Influence)が加わり時間差が長くなる。
  5. 温度変化とCO2濃度変化の時間差は大気中で10ヶ月程度、氷中では1000年以上になるものと考えられる。
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