大気中のCO2の放出、吸収の速度論

Salbyの講演を辿りながら現在と将来の COの変化を整理していく。なお、大気科学ではモル比(およその濃度を表す)の代わりに次式で定義される mixing ratio が使われる。

 eq-1            (1)

彼の講演においても COの濃度の代わりに mixing ratio という用語および r が使用されている。

COの収支は放出と吸収のバランスで決まる。下に示す IPCC の炭素バランスから人為起源の CO2 (anthropogenic CO2) は  5 GtC/yr、そして自然界で放出、吸収される CO2 は  150 GtC/yr である。これらの収支で決まる量がCOの増減速度である。

fig-1
Fig.1 CO2バランス(Salby の講演スライドから)

従って、

fig-2      (2)
Fig.2 CO2サイクルにより決まる炭素バランス(講演スライドより)

人為的 CO2(SourceHuman) の放出は自然放出の CO2(ΣSources) より小さいので無視できる。さらに、今まで整理してきたように自然放出の COは温度で決まる (thermally-induced CO2) ので E(T) と表す。吸収プロセスは COの濃度に依存するので A(r) と表す。テイラー展開の第一項で近似すると (3) 式のようになる。吸収プロセスは CO濃度の一次速度式で、定数 α は、COの大気中での滞留時間 τ (α = 1/τ) と関係づけられる。

fig-3
Fig.3 CO2  濃度の上昇速度(講演スライドより)

          eq-3        (3)

COの滞留時間 τ は上記の IPCC の炭素バランスからおよそ

τ = (CO2 hold up in air) / (net absorption rate of CO2)
= 750 GtC・y-1 / 150 GtC・y-1
= 5 years                                     (4)

となる。あるいは相互相関関数からも決められ   年である。

14C は 5000 年以上の半減期を持つ放射性炭素である。大気圏上層で、宇宙線の二次中性子と窒素の反応によって生成され、地球圏の炭素サイクルにわずかに組み込まれる。生成された 14C は大気中で酸素原子と反応し、14COを生成する。14COは放射性炭素年代測定でも利用される。

東京オリンピックのちょうど1年前の 1963 年 10 月 10 日に部分的核実験禁止条約 (NTBT: Nuclear Test Ban Treaty) が発効した。地下を除く大気圏内、宇宙空間および水中における核爆発を伴う実験が禁止された。それまで、核実験の影響で人工の 14COが大気中に放出されていたが、この条約以降それが止まった。1963 年に存在度がピークだった 14CO2  は、以後自然界に吸収されていく。この吸収プロセスを解析して COの滞留時間 τ が正確に求められる。結果は下図のように指数関数に沿って 14COが減っていき、滞留時間τは 8.6 年と求められた。

fig-4
Fig.4 大気中の 14COの減少変化(講演スライドより)

人為的な COの放出と吸収のプロセスについても上記の全プロセスと同様に考えられる。2002 年以前は、人為的な放出速度の変化は小さいので放出量を一定の EA0とみなすと、その期間の CO2 の濃度 rA は  EA0 で表される。従って

rA = EA0 = 3.5/(1/8.6) ≒ 30                        (5)

である。(下図を参照)

fig-5
Fig.5 人為的 COの濃度変化(講演スライドより)

fig-6
Fig.6人為的 COの濃度変化の解析(講演スライドより)

2002 年以降、人為的な CO2 放出量は増えて行き、過渡的な吸収プロセスの後、平衡状態になる。COの滞留時間が 8.6 年なので、放出プロセスだけの場合に比べて8.6年遅れて同じ過程を辿る。これはたとえば、化石燃料の燃焼による人為的な排出量が変わっても、CO2濃 度はすぐには応答せず約 10 年遅れて変化することを意味する。

上図を 2007 年での COバランスで例示すると下図で示すようになる。緑の点が全 CO濃度、青の点が自然界の CO濃度、実線が熱で放出した CO2であり、グレーはその誤差範囲である。人為的な COの割合は 28% である

fig-7
Fig.7人為的 COと自然サイクルの CO濃度割合(講演スライドより)

2014 年に人為的な COの排出を全てゼロにしても少なくとも約 10 年は COの濃度はそのまま上昇する。人口増加が続く限りさらに継続するものと思われる。

fig-8
Fig.8人為的 COとを停止した時の CO濃度変化(講演スライドより)

また人為的な COが、1960 年から 2014 年までの COの増加分の 50% まで上昇するのは 2092 年で約 80 年後である。

fig-9
Fig.9人為的な COが、COの増加分の 50% まで上昇する時の変化(講演スライドより)

燃料の R/P は石炭がおよそ 100 年、天然ガス、石油がおよそ 50 年である。そこで、50 年後に燃料の消費量が半分になるものとすると、将来の CO増加を 2014 年の時の CO増加分の 50% に抑えることは不可能ということになる。

fig-10
Fig.10人為的な COを、半分にした時の CO変化(講演スライドより)

以上まとめると、

  1. COサイクルは人為的な COと自然の COとからなり、人為的な COは5% 以下である。
  2. COの滞留時間は 5-10 年であり、この値をもとに放出と吸収のプロセスを解析できる。
  3. 人為的な COの排出量をゼロにしても約 10 年は COの濃度が現状のまま上昇する。
  4. 人為的な COが、COの増加分の 50% まで上昇するのは約 80 年後である。
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