温暖化の科学の出発点3

- CO2のkinetics

氷床コアの分析からも示されるように、地球の温度は数十年、数百年をかけてゆっくりと高低を繰り返してきた。温度の変化とCO2の変化はある程度呼応している。どちらかが原因で他方が結果かも知れない。80万年前まで遡れる周期的な温度変化の要因はまだ明確ではない。そうした中、現代の温暖期にだけ科学的な証拠もなく、400 ppmのCO2濃度変化に温暖化の原因を特定化するのは科学的思考の飛躍である。

今年に入って、大手の三つの銀行が破綻した。オンラインによる取り付け騒ぎである。デジタル時代の預金の取り付けという意味で「デジタル・バンク・ラン」と言うそうである。50年前の1973年に大阪で、豊川信用金庫に対する取り付け騒ぎ(豊川信用金庫事件)があった。ことの始まりは、電車内での女子高校生のたわいない一言だったそうだ(朝日新聞「天声人語」(5/9/2023))。愛知県の豊川信用金庫へ就職が決まっていた一人に、もう一人が「信金は危ないわよ」と冗談をとばす。真に受けた当人から親戚へ、その知人へと話は広がり、夫婦が営むクリーニング店に流れ着いた。店番中の妻が、多額の現金をたまたま下ろそうとしていた人と出くわした。「うわさは本当だった」。もう止まらない。得意先に電話をかけまくった。うわさやデマで一部の人々がパニックに陥ったのである。「CO2による人為的な温暖化仮説」を見聞きしていると同様のパニックが起きているように思える。「科学ではなく回りの空気で動いている」のである。その空気を作り出しているのがIPCCにほかならない。

これまで、下図に示すようにCO2は地球からと地球への放出と吸収プロセスからなることを整理してきた。そしてこれらのプロセスは温度に依存している。地球の温度が上がると放出プロセスによるCO2の量が上昇し、大気中のCO2濃度が上がる(thermally-induced CO2)。逆に、地球の温度が下がると、放出プロセスによるCO2の量が減少し、大気中CO2濃度は下がるのである。

fig-1
Fig.1 地球上のCO2の吸収と放出の温度依存性を表す模式図

主要なCO2の放出と吸収プロセスは下図で示される。植物は、CO2を固定するが、朽ちた葉などは数年以上かけて分解しCO2に戻る。温度が高いほど分解速度は速い。前にも述べたように、大気中のCO2の約1/3は動植物の分解からで、2/3は海から放出される。海からの放出も温度が高いほど増える。人間の燃焼によるCO2 は、約4%のみである。

fig-2
Fig.2 主要なCO2の放出と吸収プロセス

陸地は地球の約30%を占め、陸地の30%が森林である。森林は、地球全体では約10%である。亜寒帯林は北半球では北緯50度から70度に広がっている。南半球では南アメリカの南端などにみられる程度である。下図で示すように、人工衛星からの測定結果によるCO2濃度の分布と森林分布は良く対応している。

fig-3
Fig.3 森林面積の分布図

fig-4
Fig.4 人工衛星からのCO2濃度の分析結果(NASA, 2010)

地球上の生物体(バイオマス)は有機物質と水で構成される。下図は地球上のバイオマスの分布を示したもので植物が主要なバイオマスであることがわかる。バイオマスは植物を中心に食物連鎖でつながる。各生物体は空気が存在する好気的分解ではCO2を発生する。そしてCO2は、植物の光合成で有機物として固定化され炭素サイクルを形成する媒介となる。大気中を拡散、移動できるCO2が気体でなければ炭素サイクルまたは生物サイクルは成立しない。従ってCO2は生物サイクルにおいて自然界が与えた非常に重宝な物質と言える。前回述べたように、CO2濃度が高いと光合成の速度が増すので生物サイクルの速度が増すことにつながる。現代の温暖期においては、衛星観測で示されているようにここ数十年(1982 ~ 2010 年)にわたり地球の緑化がみられる(Ref.)。「CO2の追肥効果」による緑化と考えられる。

fig-5
Fig.5 地球上のバイオマス分布

その非常に重宝な物質である大気中のCO2濃度を変えるのは陸の緑と海、そして数十年から数百年にわたり変化する温度である。緑は光合成と植物の分解に関係し、広大な海はCO2を溶解してバッファーの役目を果たす。温度変化は分解と溶解速度を変化させる。

fig-6
Fig.6 緑と水で覆われた地球

自然界の CO2 の放出速度と吸収速度は、CO2以外のガスが相互作用しないものと仮定すれば、CO2 発生源の濃度また大気中の CO2 濃度に比例するものと近似できる。そうすると CO2 の吸収速度は典型的な一次速度式で表され、CO2 の濃度の経時変化が決められる。すなわち、

  eq-1            (1)

 eq-2                (2)

は定数であり逆数が滞留時間 τ である。C0  は初期の CO2 濃度である。この式は、14C の吸収速度の結果から確かめられた。自然の CO2 の放出速度と吸収速度は温度により変わるので、CO2 の滞留時間も厳密には温度依存性がある。この場合の滞留時間は 8.6 だった。

fig-7
Fig.7  1963 年以降の大気中の 14CO2 濃度の減少変化 (by Salby)

CO2 の自然プロセスでは (1) 式に CO2 の放出プロセスが加わる。従って、

eq-3                (3)

eq-4(4)

eN, eA はそれぞれ自然の CO2, 人為的な CO2 濃度変化量 (ppm/yr) である。数値計算の実例はHardeの論文(H. Harde, Global and Planetary Change 19, 152, 2017)などを参照できる。産業革命以前の濃度は280ppm だったが、2020 年の CO2 濃度は 130ppm 増えて 410ppm であった。(4) 式の解析によると、増加分 130ppm のうち、18 ppm (14%) が人為的な増加分、そして 112ppm (86%) が自然の CO2 増加分である。下図に示すように、IPCC の解釈では増加分 130ppm の全てが人為的な増加分となっている。

 fig-8

Fig.8 CO2濃度増加への自然と人為的な寄与の解析例

以上、かけがえないのない物質である大気中のCO2濃度を変えるのは陸の緑と海、そして数十年から数百年にわたる温度変化であることを述べた。さらに陸の緑についての補足を以下にする。下図は、北極近辺(北極海沿岸のバーロー)、ハワイ、赤道、南極におけるCO2濃度の経日変化を示している。CO2の季節における濃度変化は南極で小さく、北に行くほど大きくなる。南半球は陸地面積が小さくかつ森林面積が小さい。一方、北半球は陸地面積が大きくかつ森林面積も大きい。さらに一年の温度変化が大きい。熱帯は年間の温度変化が小さい。従って、光合成の量だけでなく生成された植物体の分解量の変化が北に行くほど年間を通して大きくなるものと考えられる。

fig-9
Fig.9 地球上の各地点におけるCO2濃度の変化

自然界には13Cが1.1% 存在し、光合成は12CO2を13CO2よりも多く取り込む。従って、植物が分解してCO2を放出すると大気中の12CO2の割合が増え13CO2の割合は減少することになる。下図の結果は、植物分解から放出されるCO2の大気中のCO2への寄与が大きいことを示している。

fig-10
Fig.10 CO2の変化と13C変化との関係

科学の出発点として、これまでのことをまとめる。最初に(1)太陽エネルギーと炭素収支について整理した。人為的に放出されるCO2は自然界から放出されるCO2を含めた全CO2の高々約5%であること、地面から反射して大気中の赤外活性物質に吸収される赤外線は地球に入射するエネルギーの15%であること、大気中の赤外活性物質の95%は水であってCO2は無視できる程度であることを述べた。次いで(2)CO2が温度の関数であることを各種データを使ってまとめた。CO2の濃度変化が温度を変えるのではなく温度変化がCO2の濃度を変えるのである。そして最後に(3)CO2の地球上の吸収と放出のプロセスの動力学について整理した。これら吸収、放出速度は数十年から数百年の温度変化に呼応してCO2があたかも地球上で呼吸しているかのようにふるまう。そして、近似的にCO2の濃度に比例するという一次式で表される。近似式はCO2の自然の挙動と人為的な経時変化のプロセス解析に有用である。

CO2は生物サイクルに欠かせない重宝な物質であり、「CO2の追肥効果」により地球の緑化に役立つ有用な物質でもある。大気からCO2を取り除くという積極的な科学的根拠を見出すことはできない。“脱炭素”、“カーボンニュートラル” という掛け声はただIPCCのプロパガンダが元になっているものとしか思えない。

This entry was posted in Uncategorized. Bookmark the permalink.

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

You may use these HTML tags and attributes: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>