温暖化ショックとオイルショックと (7)

温度について

2000年の11月に大統領選挙があった。USA で投票した初めての選挙だったので良く記憶に残る。これはGeorge W. Bush とAl Gore の選挙で最後のフロリダの開票結果まで決着がつかなかった。フロリダでは投票カードの一部のパンチが半端であり読み取り機で正確に判別ができなかったからである。一部の不明瞭な投票カードをひとつひとつ人間が見直すという作業が行われようとした。不明な投票カードをどうするか裁判に持ち込まれた。裁判は実況中継された。どのようなドラマの裁判のシーンよりまさにリアルで迫力あるものだったことは言うまでもない。読み取り機のメーカーも証人に出た。彼は、裁判の流れで読み取り機は完全なものでなく人間による確認作業が必要だと心ならずも述べるはめになった。ブッシュ側は機械による読み取りで決めるべきだと主張していたから、ゴアの勝ちかと思われた。最後の投票カードの確認中に連邦最高裁判所の決定が出た。機械読み取りの結果で決するべきだと言うもので確認作業は途中で中止された。その模様もライブで見ることができた。

もしゴアがその大統領選挙で勝っていたならば、「不都合な真実」という映画は出来ていなかったに違いない。大統領選挙に負けて、彼が今どうしているのだろうかという頃その映画は出てきたのである。2006年だった。彼が Vice President の時、京都議定書が出たこともあり温暖化問題については非常な興味を持っていた。2000年の大統領選挙の時の主張の一つでもあった。映画の中で温度の変化について説明する箇所がある。下に示す一こまは、リフトで昇りながら温度の上昇を語るところである。

地球の温度は、±5℃ の範囲で変動してきた。しかし、温度の変化を論じる場合温度のスケールがまちまちである。過去、120 年の温度変化のデータが良く示される。その場合 ±0.5℃ のスケールとなっている。地球時間では、ある一点を拡大して見ている。±0.1℃ の変化も我々にとり大きい変化なのだが、拡大したデータを基に異常だとみなすのは、地球科学上はふさわしくない。

温度のスケールを同一にして比べるべきである。下の図は 420,000 年のスケールを基に過去 2,000 年、120 年の温度の変化を並べた。

420,000 年の間、温度は12℃ から 22℃ の範囲で変化した。これを 0 から 100 としても良い。規格化と呼ばれ、パラメータを比較する場合の通常のやり方である。下のビデオでは 3,000,000 → 420,000 → 12,000 → 120 年を比較する。

これらのグラフから言えることは、過去 120 年の温度変化は異常ではなく自然サイクルの範囲内だということだ。これらのグラフの上に、物理量の異なる二酸化炭素の濃度変化を任意に広げたり、ずらしたりして比較するので混同が始まる。

「不都合な真実」と言う映画が公開されて翌年の2007年にノーベル平和賞がゴアとIPCCに与えられた。誰でも、数年で地球科学の大家になれるとの証拠 (?) でもある。ノーベル平和賞と言えば、1974年10月8日、佐藤栄作元首相に対し、ノーベル平和賞の決定というニュースがラジオから流れたことを思い出す。私が井の頭線の高井戸で下宿していた時、隣の同居人がふすま越しにやりようのない大声を上げていた。

上記のビデオのグラフで示すように300万年前は、地球の温度はかなり高かったようである。

カナダの北の島々の端に世界で10番目に大きな島がある。カナダの国立公園にもなっている Ellesmere Island である。北極から 800 キロ、グリーンランドの北25 キロのところにある。

私が現在住んでいるコロンバスの中心のすぐ北にオハイオ州立大学の大きなキャンパスがある。このオハイオ州立大学の教授が今年の夏にそのEllesmere Island で氷河に埋もれていた木と葉などを見つけたという記事があった。数百万年はグリーンランドの北にある島も木が生育するほど暖かだったということである。ただ気温は高くても、一年の半分は暗かったために木の成長が遅く年輪は非常に密だという。地球の気候の変化は、我々が想像する以上にダイナミックである。現在ちょっとしたことで温暖化だとか異常気象だとかいうのがみみっちく思われる。

南極大陸に水で満たされた湖がある。ボストーク湖で氷の下にある。琵琶湖の20倍以上の面積である。平均水温は-3度で、上を覆う氷の重さによる圧力のため氷でなく水である。この湖の上から世界で最も深い3,628メートルまでコアの掘削が行なわれた。湖の頂上付近で採取された氷のサンプルを分析した所、その氷は約42万年前の物だと分かった。湖が50万年以上にわたって氷に封印されている事を示している。これはグリーンランドの北のEllesmere Island の森の季節が終わったことと一致する。

1985 年にサンプリングされたコアが1985-2000 年に掛けて解析された。点の一つ一つが 1000 年のインターバルを示す解析であった。四度の氷河期が繰り返されてきたことがわかった。 

コアに含まれていた気泡は当時の大気の組成である。ただその大気組成が温度の変化を正確に反映しているのかどうかは良くわからなかった。そこで科学者は気泡中のアルゴン同位体の分析を行った。Termination III (∼240,000 年前)の分析結果はCO2 の濃度の上昇は南極大陸の氷床の融解より800 ± 200 年より先立つことがわかった。また北半球の氷床の融解よりも先だった。2003 年に点の一つ一つが 200〜300 年のインターバルを示す高解析度の修正された結果が出た。それによると温度の変化が 800 年先行し、その後 CO2 が追従して変わることがわかった。

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