アーミッシュと呼ばれる人々

 今日、電気・電話・自動車を使わず生活している人々がいるとしたら、皆さんは信じるだろうか。ペンシルベニア州の首都ハリスバーグの少し南にランキャスター郡があり、ここにアーミッシュと呼ばれる人々が生活している。彼らのルーツは十六世紀にさかのぼり、スイスで信仰による迫害を受け、アメリカに移民してきた人々である。生活様式は質素で、現代文明を避け、信仰に基づき、先祖代々の農業を二百年以上にわたって営んできた。別名“質素(The plain)な人々(people)”と呼ばれる。教会の各派によって多少生活様式は異なるが、最も保守的で伝統を重んじる、オールドオーダーアーミシュの独自の生活を紹介したい。

農耕は馬を使い、トラクターなどの動力機械は使わない。男の子は小さい時から、父親の手助けをして農業を学ぶ。家庭内の雑用を助けるのも子供たちの大切な役割である。家族用のミルクを絞ったり、アヒルを飼育したり、果物のびん詰めを母親と共にする。一家の平均耕作面積は六十五エーカーというから広大である。成長した子供は結婚すると、父親から土地を与えられ独立する。彼らの農作物は好評で、ニューヨーク、ニュージャジー等へと出荷される。一度、添加物の無いトマトジャムを食したことがあるがおいしかった。

 近年、アーミシュのキルトが注目を浴びだした。十人以上の女性が一緒に、すべて手製で仕上げていく作品で彼らの歴史や文化を象徴する価値あるものである。これらのクラフト製品を求めて、観光客が絶えず、年間五百万人を超す。そのため、心無い人々がアーミシュの玄関先まで訪れたり、日常生活のプライバシーを侵害したりする問題まで起きてきた。

 学校は一教室に、異なった年齢の生徒が一緒に学ぶ。定員二十名の複式授業である。この地方の人々は、ドイツ訛りの英語を話す。日本で言う中学を卒業すると、男子は父親の農場で働くか、他人の農場に雇われ一人前の農夫になる。服装は学校や教会、労働時も質素で、黒が主体のズボンである。ドレスに白、青、紫等の服を着る。因みにボタンは使わない。

 車の代わりに馬車を使う。黒い箱型の馬車に乗り、家族揃って教会や町に行く姿を見かけることがある。馬車の後部に「徐行」のマークが付いており、一般道に出た時は、これがアミシュの目印ともなる。大きな男の子は自転車に乗ることが許可される。

 アーミシュは写真を撮ることを嫌う。正式な家族写真以外は、“偶像”と信じ、公の目に彼らの生活が晒されるのを避ける。しかし、ハリソン・フォード主演の映画「目撃者(Witness)」が放映されて以来、彼らの暮らしや生活様式が、一般の市民に公開された。あの映画の中で青写真もなく、釘も使わず、男たちの手で家が建てられていく光景はまぶしいほどに美しかった。

 最近の彼らの一番の問題は土地の値上がりだと言う。アーミシュの人口が増え、子孫への土地の確保に頭を痛めると言う。これは一般社会にも共通した問題であり、彼らも世間の波を受けて生きていかざるを得ない。

馬を使い沃土耕すアミッシュの麦藁帽の顔の幼し

文明は何かと問うているごとくアミッシュの馬車「徐行」してゆく


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