大気こそが温室効果ガスである - 1
話を進めるために、大気に関する必要な物理化学の整理をしておく必要がある。簡潔にするために、必要な式は結果のみである。式の導き方はリンクしたウィキペディアなどでたどることができる。
<運動エネルギー>
地球温暖化について考えることは大気の温度を調べることである。それでは、大気の温度は何かというと、大気を構成するガス分子の運動エネルギーである。この場合の運動エネルギーは大気を構成するガス分子の併進エネルギーである。大気中のCO2による赤外線の吸収エネルギーは、気温を決める分子の併進エネルギーに比べるとはるかに小さい。学部の物理化学の教科書で最初に触れられるように、気体の温度と運動エネルギーとの関係は、気体の状態方程式と分子運動論から次式のようになる。
kT= 3/2・mv2 (eq.1)
(k=ボルツマン定数、T=温度、m=分子の質量、v=分子の速度)
<ウィーンの変位則>
黒体からの輻射のピークの波長が温度に反比例するという法則である。
(b = 2.8977729×10^−3 K·m) (eq.2)
CO2は15µmの赤外線を吸収する。これはeq.2から-80℃の温度に相当する。
熱輻射により黒体から放出される電磁波のエネルギーと温度の関係を表した物理法則である。
(eq.3)
<太陽定数>
太陽定数とは、地球大気表面の単位面積に垂直に入射する太陽のエネルギー量のことである。太陽定数は、下図で示すように周期的に変化する。
(eq.4)
R = 太陽の半径 (6.96 x 10^8 m)
D = 太陽と地球の平均の距離 (1.5 x 10^11 m)
Fig.2.衛星観測された1979年から2005年にかけての太陽定数の周期変化
天体の外部からの入射光に対する、反射光の比である。入射光の総量に対する反射光の総量の割合である。通常は電磁波の波長も問わず、全帯域についてスペクトル密度を積分する。そのため、入射エネルギーに対する反射エネルギーの割合とも言える。地球の場合は0.3である。
アルベドが0.3ということは、入射光の30%が地球の外側で反射される。70%の透過光のうち20%が紫外線、可視光で、残り50%が赤外線である。エネルギーは紫外線、可視光が赤外線より大きい。
赤外線のうち15µmの波長の領域がCO2により吸収される。大気と地表面で吸収される太陽光の70%が大気を直接、間接的に暖めている。15µmの赤外線が400ppmのCO2に吸収されて、温室効果に主に寄与するというのは明らかに誤りである。
<地球表面の温度>
ステファン・ボルツマンの法則から単位面積あたり次式が成り立つ。地球の位置での太陽定数は地球全体に平均すると、その1/4となる。
¼・(1-α)Gsc = σT4 (eq.5)
(αはアルベドで0.3)
従って
(eq.6)
= 255K (-18℃)
地球の表面温度は、この計算値より33℃高い。
<気温減率(laps rate)>
高度が上がるに従って大気の気温が下がっていく割合をいう。重力によって支えられている球形の気体であれば、どのようなものにでも適用できる。気体の状態方程式と、気体分子に対する重力によるポテンシャル変化から関係式が導かれる。対流圏(下図の11kmまでの一番下の層)ではある高さzでの温度Tは次式となる。
(eq.7)
(z=高さ、g=重力加速度、Cp=定圧比熱)
大気の下層ほど圧力が高く、分子数が多い。気温減率は、定性的には温度は分子の運動エネルギーで決められ、分子数の多いほど全運動エネルギーが大きく、温度も高いというふうに解釈できる。
我々が大学、大学院で学んだことを素直に論理的に考察すべきである。繰り返しになるが、
1. 大気の温度とは大気ガスの運動エネルギーである。
2. 大気ガスの運動エネルギーは、地球の重力、大気圧のために対流圏では均一に分布しない。
3. 運動エネルギーは入射する太陽エネルギーで決まる。
4. 地表面で最も運動エネルギーが大きく温度が高い。高所ほど温度は下がっていく。
5. 高さと温度の関係は、気温減率(laps rate)の関係式で整理できる。
6. 気温減率(laps rate)はCO2の赤外吸収、放散とは全く無関係である。
大気ガスの運動エネルギーとは、言うまでもなくN2とO2の運動エネルギーである。N2とO2こそが地球を33℃暖めている温室効果ガスである。
“THE HOCKEY SCHTICK”というブログではThe Greenhouse Equationという式を提案している。これは気温減率(laps rate)の関係式を変形したものである。
(eq.8)
T = temperature at height (m)
s = height (m)
S = solar constant (= 1367 W/m2)
ε = emissivity (= 1 assuming Sun and Earth are blackbodies)
σ = Stefan-Boltzmann constant (= 5.6704 x 10-8 W m-2 K-4)
g = gravitational acceleration (= 9.8 m/s^2)
m = average molar mass of the atmosphere (= 0.029kg/mole)
α = albedo (= 0.3 for earth)
C = heat capacity of the atmosphere (= Cp ~ 1.5077 for Earth)
P = surface pressure
R = gas constant (= 8.3145 J/mol K)
e = 2.71828
この式によると対流圏の任意の高さの温度を計算できる。対流圏の半分の高さがステファン・ボルツマンの法則で計算した-18℃または255Kであり、地面が+15℃または288Kである。
大気こそが温室効果ガスである - 2
前回示したThe Greenhouse Equationは見かけは複雑だが、中味は比較的簡単である。ステファン・ボルツマンの法則から温度はeq.5で計算できる(εはemissivityで1と見なしてよい)。
T = (eq.5)
ここで、基本的な熱力学の関係式を思い出す。
mgΔh = RTln(P) (eq.9)
対流圏の温度は高さの一次式で表されるLapse Rate の関係式に上記の式を使う。
T = To – g/C x h (eq.7)
ここで、ステファン・ボルツマンの法則から求められる温度を、対流圏の真ん中の高さに相当するものとする。
T = Te – g/C x (s + Δh) (eq.10)
そうすると次式が得られる。
(eq.8)
Lapse Rate の詳細な計算例は、“THE HOCKEY SCHTICK”のブログで示されている。重要なことは、Lapse RateがCO2の赤外吸収、放射とは全く無関係であること、入射する太陽エネルギーと地球の重力下におけるN2とO2の運動エネルギーで決まるということである。
対流圏の高さで気温が決まり、その関係式がわかっているので、対流圏の全熱容量が計算できることになる。全熱容量が時間とともに大きくなっていれば、対流圏は温暖化していることになる。The Greenhouse Equationで決まるある高さhでの温度をT(h)とする。全熱量量Jallは、大気の高さと組成の平均比熱をCav、単位体積の大気の平均質量をMav、地球の全表面積をSallとすれば、
Jall = (eq.11)
である。
比熱と質量は厳密には圧力と温度で変わるので複雑である。CavとMavは大気の組成の変化で変わるが、CO2は400ppmなので数ppmの変化は無視しても良い。水は1~2%だが、相変化があるのでその影響は小さくないはずである。要するにLapse Rateが(eq.8)で近似できるという前提に立てばCO2の所謂15µmによる温室効果は誤りである。
Lapse Rateを使った温室効果については、最近ネットではgravito-thermal effectと言われている。このキィーワードで検索するといくつかヒットする。個人的には、この語彙が重力がエネルギーを変動させているようで使いたくない。
大気こそが温室効果ガスである - 3
1973年のオイルショック後に太陽電池が注目された。その後、「人為的温暖化仮説」が叫ばれ出して、CO2を削減するために、「再生可能エネルギー」の柱として再度注目されている。また、原子力発電所事故がその開発に追い風となっている。
太陽電池は、太陽光のうちエネルギーの大きい近赤外線より波長の短い電磁波を対照にしている。大気中のCO2が吸収する赤外線は15µmであって、はるかにエネルギーは小さく強度も弱い。太陽エネルギーのうちでは極端に小さなエネルギー領域であって、なぜ「人為的温暖化仮説」の立役者になっているのか、全くもって理解に苦しむ。
温室というのは、大気を閉じ込めて太陽で大気の運動エネルギーを高めるもので、閉鎖系にすることによりヒートロスを少なくしようとしている。大気は太陽エネルギーで直接暖められる。CO2による赤外線の吸収、放射とは無関係である。
上記のことは、我々が日常経験することである。週末に一週間の買出しに出かける。天気の良い日には、一時間後にスーパーから戻ってくると、車内は蒸し暑くなっている。温室と一緒である。この現象に関連して、ネットにJAFによる簡単で良い実験が見つかった。五台の乗用車を日中四時間にわたり放置した。各車両の条件は下記のようであった。
下に示すように、単に放置した2台の車は、一時間後には20℃以上も温度が上昇した。直射日光で車内の温度が上がったのである。車体が黒の方が白より上がったということは熱伝導も馬鹿にならない寄与があることを示す。
同じような実験は実験室でもできる。下記は太陽、またはランプによるガラス容器の空気と二酸化炭素を暖める実験である。空気も太陽、ランプで直接暖められて、温度が上がっている。二酸化炭素にくらべて同等である。
大気は太陽からの電磁波に透明であって、大気の温度上昇には寄与しない。温室効果ガスであるCO2のみが、暖められた地上から反射した赤外線を吸収して温度上昇に寄与するといった説明がなされる。これは誤解である。上の実験と下のスペクトルからわかるように大気自身がエネルギーを吸収して、大気の運動エネルギーを大きくしているのである。400ppmのCO2の15mmに対応するエネルギーの吸収は、大気によるエネルギー吸収に比べれば非常に小さい。
地球のアルベドは0.3であって、入射太陽光の30%が地球により反射する。残りの70%は地球に吸収される。そのうち20%が大気に、50%が地面により吸収される。地面に吸収されたエネルギーは直接、間接的に大気の運動エネルギーを大きくする。
以下は気象庁の温室効果の説明である。
地球の大気には二酸化炭素などの温室効果ガスと呼ばれる気体がわずかに含まれています。これらの気体は赤外線を吸収し、再び放出する性質があります。この性質のため、太陽からの光で暖められた地球の表面から地球の外に向かう赤外線の多くが、熱として大気に蓄積され、再び地球の表面に戻ってきます。この戻ってきた赤外線が、地球の表面付近の大気を暖めます。これを温室効果と呼びます。
温室効果が無い場合の地球の表面の温度は氷点下19℃と見積もられていますが、温室効果のために現在の世界の平均気温はおよそ14℃となっています。
大気中の温室効果ガスが増えると温室効果が強まり、地球の表面の気温が高くなります。
CO2こそが温室効果ガスであって、地球の大気を暖めるという。そして、黒体の温度で決まる氷点下19℃から平均気温の14℃まで気温を上昇させているという。明らかな、誤りである。
前回示したように、気温は大気の運動エネルギーで決まるのであり、運動エネルギーはCO2とは全く関係ない。入射する太陽エネルギーと大気圧の変化に依存するLapse Rateで決まるのである。
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仕事上、エネルギー関連の文献を眺めていると、蓄熱材に関する特許を少なからず見かける。主なものは、物質の相変化、水和物と無水物との変換を利用したものである。蓄熱材は省エネルギーの技術開発の鍵である。
我々が注目している大気も、蓄熱材と考えられ、気温を暖かくして地球上の動植物を繁殖させてくれる。400ppmのCO2が地球の蓄熱材として機能しているのでは決してない。大気中のCO2が吸収する赤外線は15µmであって、太陽エネルギーのうちでははるかにエネルギーは小さく強度も弱い。大気こそが、運動エネルギーという形態でエネルギーを蓄熱し、地球表面を保温しているのである。
こうした観点で基本的な事実をもう一度見直しておくべきだろうと思う。そして、CO2を地球温暖化の犯人にしたてた疑似科学から抜け出すことが肝心である。
人工衛星による大気の温度観測結果によると、過去18年9ヶ月にわたり温度は上昇していない。しかし、この間にもCO2は毎年1~2ppmの速度で増加し続けている。過去18年9ヶ月におけるCO2の増加は、1750年以来のCO2増加の1/3に相当する。しかし、温度は変化していない。重要な事実である。
CO2と温度の変化に相関があるが、温度の変化の方がCO2の変化よりも10ヶ月先行している。CO2が温度変化の要因とはなっていない。これも、非常に重要な事実である。
2002年を境にして化石燃料からのCO2排出量は3倍以上増加している。にも関わらず大気中のCO2濃度は一定の割合で増加していて、2002年前後で変化はない。大気中のCO2濃度を減らすために、化石燃料の使用量を削減する根拠は何もない。
下図はイギリス気象庁の 1850-2011年の間の温度変化である。温度が上昇したのは、1920~1930 年代と1980~1990年代の40年間のみである。大気中のCO2濃度に関係なく両者の温度上昇速度はほぼ同じである。そして、CO2と温度の間には系統的な相関は見られない。
以上の非常に示唆的な事実を無視して、CO2による「人為的温暖化の仮説」を肯定するわけにはいかない。上記グラフの出発点である1850年というのは、「花燃ゆ」の前半の主人公、吉田松陰が20代の血気盛んな時期であった。その頃から現在に至るまで地球の温度は非常に安定しているのである。大気が蓄熱効果をもち、33℃という温室効果も一定で極めて安定である。