何もしないことこそ真の温暖化対策 - 1
「人為的温暖化現象」という仮説が盛んに唱えられ出して久しい。その原点をIPCCが設立された1988年だとすると、30年弱になる。IPCCの連絡会議とも考えられるCOPも今年は21回を向えた。20年を超えるわけである。思えば、エルニーニョ現象で最高温度を記録した1998年が、仮説のクライマックスだった。エルニーニョの前後はラニーニャ現象が起きるのが通常で温度は下がる。だから、1998年より少し遡ってデータを眺めてみると18年以上にわたり温度は上昇していない。横ばいである。
仮説を肯定する人々は、この18年の間に起きた、低温、台風、大雪、猛暑、日照り、長雨、といった通常より大きな気候の変化を気候変動あるいは異常気象と称して地球温暖化のせいにする。すなわち、全てがCO2のせいだとする。しかし、実際にはこの18年以上にわたり温度は上昇していないのである。
この18年の間、2002年ごろを境にして化石燃料の使用量は3倍以上に増えた。しかしCO2濃度の上昇速度は変わらない。それなのに、化石燃料の使用量を削減しなければ地球環境に悪いという。発電コストを無視して、再生可能エネルギーの割合を増やせという。数億の飢えている民がいるのに、食料からアルコールを作るべきだという。
「人為的温暖化仮説」の科学的根拠は非常に希薄である。なぜIPCCが設立されてから「人為的温暖化仮説」が社会を巻き込んで疑似科学になってしまったかは、今後の社会科学の大きなテーマである。
CO2の排出量、化石燃料の使用、代替エネルギーの開発、環境への影響について原点に返って考え直す必要があるだろうと思う。
まず、第一に「CO2排出削減を今しなければ手遅れになるのではないか」という問題を考えてみたいと思う。科学的な背景に主観的な要素が入ってくる難しい問題である。一つの考え方は、日本の公害問題とその対処法をもう一度振り返って、比較してみることがカギになるかも知れない。手遅れになった例が水俣病である。
Fig.1 土下座する環境庁長官だった石原慎太郎氏
日本で発生した公害の中でも水俣病は公害病の原点である。1956年に熊本県水俣市で水俣病の発生が確認された。翌年熊本大学は、原因物質は有機水銀だという発表を行った。1959年に有機水銀説が熊本大学や厚生省食品衛生調査会から出されると、チッソは「工場で使用しているのは無機水銀であり有機水銀と工場は無関係」だと主張した。
アセチレンからアセトアルデヒドを合成するプロセスで触媒として無機水銀(硫酸水銀)が使用された。これと同様のプロセスが国内にいくつかあったのだが、水俣病の症状が出たのは、当時は水俣近辺だけだった。そこで化学工業界をあげて有機水銀説を攻撃した。すなわち、チッソ側を擁護した。メチル水銀化合物と断定されたのは、1968年である。今ではガスクロマトグラフィーでメチル水銀を短時間に同定することができる。
実はチッソ内部でも早い時期から動物を使って、排水との関わりが実験されていた。排水が動物に奇病を起こすことがわかっていたが公表されることはなかった。なぜメチル水銀が生成したのか当時の化学ではわからなかったが、水銀と水俣病の因果関係は十分推定できた。排出されていた水銀化合物がメチル水銀だと確定できなかったばかりに、チッソは水銀が水俣病の原因だとするのは”曖昧な推測に基づいた結論”だと主張し、対応が遅れたのである。
メチル水銀が生成する化学反応機構は現在もまだわかっていない。無機水銀(硫酸水銀)を触媒に使用してアセチレンからアセトアルデヒドを合成するプロセスは、世界中にいくつかある。チッソは戦前からこの合成プロセスを行っていた。しかし、人間に害が出始めたのは戦後の1956年あたりからだった。メチル水銀の詳細な化学は未解決のままである。
温暖化問題も、見方を変えれば、水俣病と同じように思える。温暖化の原因がCO2であるという証拠はない。CO2が原因だというのは”曖昧な推測に基づいた結論”である。水俣病と異なり、因果関係を示すものはない。目の前に差し迫った現象もない。水俣病の場合は、メチル水銀は同定できなかったものの、因果関係を示す事例があった。にもかかわらず,”曖昧な推測に基づいた結論”だと水俣病への対策を早急に打たなかったのである。一方、温暖化問題では、証拠がないのに、温暖化の原因がCO2であるという”曖昧な推測に基づいた結論”でCO2の問題を解決しようとする。
ここで、地球温暖化問題と水俣病問題を比較すると以下のようになる。
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水俣病 |
地球温暖化 |
原因 |
当初から、触媒から副生した有機水銀だろうということが指摘されていた。チッソ内部でも水銀を含む排水かも知れないことが推測されていた。 |
CO2と温度変化の相関関係から原因が推定されているに過ぎない。ただし、温度変化がCO2変化より先行することがわかっている。H2OがCO2より大きな温室効果ガスであることも事実である。CO2以外に太陽の影響など多くの因子が指摘されている。 |
影響 |
動物、および人間に深刻な害があった。詳細な反応機構は不明だったが、因果関係は明白だった。 |
温暖化により異常気象が起きると言われているが、それを裏付ける統計的データは皆無である。CO2は植物の育成には有益である。現代の温暖期の気温は、小氷河期の気温より、人間にとりプラスの要因が多い。 |
対策 |
詳細な反応機構は不明だったが、因果関係がはっきりした時点で対策を取るべきだった。対策が10年以上遅れた。御用学者の見解も遅い対策に加担した。 |
原因は不明。シミュレーションのみで科学的根拠は皆無。にもかかわらず、プロパガンダが先行してCO2排出量を減らす対策が取られようとしている。 |
官僚と御用学者の存在は大きく問題の解決を遅らせた。1956年、熊本大学医学部の研究チームにより、有機水銀原因説が有力視された。同年11月12日には厚生省食品衛生調査会常任委員会・水俣食中毒特別部会が大学と同様の答申を出した。ところが、厚生省は翌13日に同部会を突如解散した。有機水銀説に対する異説として、1959年、清浦雷作・東京工業大学教授らがアミン説を発表し、その主張がそのままマスコミによって報道された。1960年、日本化学工業協会が田宮猛雄・日本医学会会長を委員長とする「田宮委員会」を設置して有機水銀説に反論したのである。
温暖化の問題も、科学的根拠は皆無なのに、官僚、御用学者がCO2による人為的温暖化仮説を唱える。IPCCのメッセンジャーになっているに過ぎない。国立環境研究所、気象庁、環境省およびそれらの機関に関係している大学の研究者が問題の本質を曖昧にしているのである。
”曖昧な推測に基づいた結論”に対する応答の仕方はともすれば主観的になる。科学事象の場合はあくまで科学的事実に基づいて判断されるべきである。温暖化に対してCO2を削減しなけらばならないという科学的事実は、実はどこにもないのである。
水俣病の場合は、因果関係のはっきりした科学的事実があったにもかかわらず、”曖昧な推測に基づいた結論”に対して対応を怠った。温暖化の場合は、科学的事実がないのだから、”曖昧な推測に基づいた結論”で圧力をかけることが環境問題を真に考えている行動だとは思えない。一方、懐疑論者が環境問題に背を向く人々だとも思えない。
どこにも、CO2排出量を今削減しないと手遅れになるという理由を見出せない。では、今CO2を削減するとどうなるのだろうか。もう少し考えてみたい。
何もしないことこそ真の温暖化対策 - 2
「CO2排出量を数10%減らしたところで、CO2は増え続け、数年という時間軸を先延ばしにするだけに過ぎない」のか、あるいは「CO2排出量を数10%減らせば、2100年までに産業革命以来から2℃の温度上昇に抑えることができる」のかという問題を考えてみたいと思う。
CO2排出量の削減の効果について考えるためには、いくつかの基本的な事実を整理しておく必要がある。
1.CO2バランス
太古のCO2を固定した化石燃料を燃やして元のCO2に戻すと、現在の炭素サイクルにおける人為的なCO2の部分が若干増えるだけである。下図は炭素サイクルを定量的に表わしている。人間が排出するCO2由来の炭素は点でしかない。大部分が海に溶解しているCO2または炭酸塩である。その次が植物の光合成、分解によるものである。化石燃料にも多くの炭素が固定されているが、その内のほんの一部が燃焼などにより大気に循環されるに過ぎない。
CO2サイクルにおける人為的起源と自然サイクル起源の割合は、例えばIPCCによると5:150である。下の図で示すように、人為的起源のCO2を5(GtC/yr)とすると、自然サイクルのCO2は150(GtC/yr)という量が放散、吸収をしてバランスしている。だから、概略CO2バランスは、自然サイクル起源のCO2で決められると言える。
2.熱で生成するCO2
下図で示すようにCO2排出量の変化速度(緑の破線)と温度変化(青の実線)は良い関係にある。(Murry Salby
)
今世紀の発展途上国のCO2排出量の割合は現在約50%で、今後60%以上になるだろうと見積もられている。
以上から、急激な寒冷化でも起きない限り、「CO2排出量を数10%減らしたところで、CO2は増え続ける」ものと推定される。莫大な金を浪費してCO2排出量を規制する根拠は見出せない。
オイルショックの時の石油価格の変化でわかるように、石油の価格は政治的な要因で大きく変わる。一年前まで$100前後で停滞していたのに、今日(12/15/2015)の石油価格は、$40以下になっている。
(3)非常に限られた石油だったが、意外にも埋蔵量が年々増えていること、
近年、シェールガスの掘削技術の発達によりUSAでは、石油、天然ガスの埋蔵量が下図でわかるように、急激に増加している。
以上のように化合物のサイクルを考えてみると、化石燃料が決して毒でも何でもないことがわかる。前置きはさておき、「化石燃料のうち特に石炭の使用量を削減すべき」かどうかについてである。
石炭は、石油より安い、石油よりかたよりなく埋蔵されている。それに埋蔵量が、石油に比べて圧倒的に多いのである。世界中では石炭は発電量の40%を占め、最も重要なエネルギー源である。
両者の前提と対処方を箇条書きにして対比すると以下のようになるだろうか。
(1)現代の温暖期が、人類が排出したCO2に起因するものと仮定する。
(5)再生可能エネルギーは、コストが高くても極力推進していく。
(6)CO2削減のために、原子力エネルギーをある程度許容する。
(1)現代の温暖期が、小氷河期を終えて温暖化しつつある自然サイクルの過程と捉える。
(4)化石燃料は、有限であるということを念頭に入れて、有効に利用していく。
(5)化石燃料はそれぞれのコストに見合って、合目的に使いわけする。
(6)原子力エネルギーは、将来のエネルギーの確保のために、最低限必要な技術を確立させておく。
(7)再生可能エネルギーは、将来のエネルギーの確保のために、開発、利用する。太陽電池、風力発電は、自然との共存を考える。
まず、中世の温暖期、小氷河期、現代の温暖期の変遷の概観である。この間、温度は下図で示されるように変遷してきた。
Fig.21ノートルダム大聖堂は、中世盛期の建築の好例の一つ
エネルギー消費量とGNPの関係は下図のようになる。生活水準を上げるためには、エネルギーの消費量を上げることが必要である。そのためにはエネルギーは経済的で安くなければならない。
だから官僚と御用学者が次ぎのように語る時には注意が必要である。
1. 現代の温暖期に異常気象が増えているという統計的で客観的な事実はない。だから彼らが温暖化により異常気象が増えていると言う時。
2. CO2により人為的に温度が上昇しているという統計的で客観的な事実はない。だから彼らが具体的な数字で温暖化を語る時。
3. 人工衛星による温度結果を無視して、地上の温度計の観測結果だけを述べる時。
4. 人為的な温暖化の科学的な事実はない。だから、エルニーニョ現象をCO2による現象とごまかす時。
我々は、現代の温暖期に感謝すべきで、貧困問題を棚上げにして、化石燃料を非常識なレベルまで削減する合理的な理由を私には見出せない。何もしないことこそ真の温暖化対策なのである。